Vol.2 事業性評価「シート」に思うこと(2019.1.7)

「事業性評価」の登場から4年

2014年9月に公表された『金融モニタリング基 本方針』で「事業性評価」が登場してから4年が過ぎました。 

各金融機関では、いくつかの成果・成功事例が出てきた(点)が、多くの局面で浸透・定着している(面)とまでは言えない、といった感じではないでしょうか。また、これまでもお客様の事業を見て活動できていた優秀な営業担当者は、「事業性評価シート」が有っても無くても望ましい活動が継続できている一方で、それ以外の担当者は「事業性評価シート」を書いても (項目を埋めても)お客様へのアドバイス(コ ンサルティング)や事業性評価に基づく融資に結びつくにはまだ遠いという声も多く聞きます。 

事業性評価は道半ばですが、「お客様の事業や将来性を見る」ことの重要性が弱まるはずはないので、力を入れ続けて欲しいと願っています。 ただし、いまのやり方のままで、何年か後に望ましい姿に到達できそうかは考えてみる必要がありそうです。 

事業性評価「シート」に思うこと

事業性評価の梃入れにはいくつかの切り口がありますが、今回は事業性評価「シート」について思うところを書いてみます。 

まずもって思うのは、「一般的な営業担当者が書くのは相当大変だろうな」ということです。 

金融機関らしく完璧主義・網羅主義で項目の設定がされているために、とにかく大変そうに見えます。たしかにそれぞれの項目を知ることができれば望ましいには違いありませんが、果た して一般的な営業担当者にそこまでの力はあるでしょうか。「お客様に応じて記載項目の濃淡 をつけて良いと指示している」という話を聞くこともありますが、濃淡づけの判断ができるのは優秀な営業担当者だけです。 

とても大事な項目がおろそかになっている

それだけ網羅的に項目設定されているにも関わらず、とても大事な項目が抜け落ちている、ないしは軽視されているのが気になっています。 
事業性評価シートの作りは各金融機関で違いますが、典型的には以下のような構図です。 

  • 企業の属性、取引内容、後継者情報 ・業界􏰀向、商流、取引先
  • 課題
  • SWOT分析 ・提供可能なソリューション

一見して問題ないようにも思えますが、シートの構成からは「経営者の考える、これからのありたい姿や目標」(以降「目指す姿」と表記) を大事な項目として理解しようとする意思が伝わってきません。この点が、大きな気がかりです。拙著『ゴールベース法人取引』で定義した 『ゴール』がまさに「目指す姿」にあたります。

課題もSWOT分析も書けないはず 

「目指す姿」を理解していなければ、事業性評価シートの「課題」は、意味あるものが書けるはずはありません。「課題」を、「今できていないこと」と単純に捉えると、書く内容は山ほど出てきます。中小企業なので、当たり前です。 しかし、本来理解し記載すべきは、「目指す姿」に辿り着くために乗り越える壁(=「目指す姿」と現状との差分)です。 

SWOT分析も同様です。各事象には「強み」に も「弱み」にも、また「機会」とも「脅威」ともなる二面性があります。私は身⻑181cmですが、もし女性だったら、この身⻑は私の人生において「強み」でしょうか「弱み」でしょうか。 華やかなモデルになりたい夢があるなら「強み」ですし、できれば目立たず静かに過ごしたいのが望みなら「弱み」です。このように「目指す姿」の理解があって初めて、事象をSWOT のいずれかに分類できるわけです。 

さて、立ち戻ってみて、一般的な営業担当者は、 経営者の「目指す姿」を理解できているでしょうか。その理解のもとで課題やSWOT分析などを記載しているでしょうか。そして、何よりも大事な経営者をサポートするための検討が、意味ある現状把握に基づき行えているでしょうか。 

事業性評価シートは、営業担当者の意識づけのツールでもあります。シートの構成が「目指す姿」を大きく、かつ「課題」よりも前に記載するようになっていなければ、答えは限りなくNO に近いでしょう。

対話のシートとして活用しにくい

事業性評価シートは、経営者との対話ツールとして活用することで意味を増します。しかし、 前述のようなシートでは経営者も聞いていて面白くないですし、的外れ(経営者の関心と違 う)の危険性もあります。 

また、そもそも「目指す姿」を聞かずして経営者に「課題」をヒアリングするのは、一般的な営業担当者にはかなり難易度が高いため、シートを埋めることができず、対話に至らないケー スも多くあるのではないでしょうか。

「経営デザインシート」(内閣府)  

事業性評価シートを見直す際の「考え方」とし て内閣府作成の『経営デザインシート』は見てみる価値がありそうです。これは、経営者が「将来を構想するための思考補助ツール」で、 「環境変化に耐え抜き持続的成⻑をするために、自社や事業の(A) 存在意義を意識した上で、(B) “これまで”を把握し、(C) ⻑期的な視点で“これから”の在りたい姿を構想する。(D) それに向けて今から何をすべきか戦略を策定する」ためのものです。ポイントは(C)の“これから”です。 

事業性評価シートで蓄積した情報も用いて『経営デザインシート』を書いてみて、経営者と「目指す姿」に基づく対話を行うことができれ ば、作成してきた事業性評価シートもムダにはなりません。 

事業性評価の一層のレベルアップを期待しています。

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。