Vol.6 日経新聞「人材枯渇の危機」を読んで思ったこと(2019.2.27)

日経新聞の「地銀波乱」特集

ほとんどの方が目にしたと思いますが、日経新聞が、年明けに続いて「地銀波乱」という特集を組んできました(2019年2月20日・21日)。 

今回のテーマは「人材枯渇の危機」。(上)は “新卒が集まらない厳しい経営魅力も低下”、 (下)は”エリート行員流出入行時の志かなわず“と二本立てで、人材に焦点が当てられました。 

地域金融機関が不人気業種になってきた

(上)ではHR総研の調査を引用し、19年に卒業する就活中の学生へのアンケート調査によると、「最も敬遠したい業界」に地銀・信金を挙げた文系の学生は全体の3位で、前年の10位から浮上したそうです。そのうえで、4月入社者の確保のために、年末年始も採用活動を続けている地銀は少なくない、とありました。本当に 「少なくない」のかどうかは別にして、たしかにお会いした地域金融機関の役員の方々からは、「以前に比べて採用に苦労している」というトーンのお話をうかがう機会は多くありました (お会いしたなかで「苦労していない」と明言してたのは1先だけでした)。なので、「採用難」というのは、皆さんの肌感覚と合致していることと思います。 

なお、余談になりますが、コンサルタントの所作の基本は「原典にあたること」です。そこで HR総研の調査を見にいったところ、「最も就職したい業界」という真逆の調査もありました。 

それによると、地銀・信金は8位でした。前年の3位から落ちてはいるものの、ベスト10入りはしている、ということは共有しておきます (ちなみに、前年は最も就職したい業界8位だった「放送、新聞、出版」は、ベスト10から消えていました)。 

若手行職員の退職を重く受け止めるべき

閑話休題。 (下)は「エリート行員流出」となっています 

が、中堅エリートが転職するのは、多くの業界に共通することです。それよりも地域金融機関として重く受け止めるべきは、若手層、とくに入社して3〜5年以内の行職員の退職が増えていることではないでしょうか。記事のなかにも約3年で転職したケースが載っていました。この層は、現時点で自分ができることに一定の限 界があるのは理解しているはずです。したがっ て、「自分が“いま”やりたいことができない」、 というよりも「上司や先輩を見ていると“このま ま居続けたとしても”やりたいことができないかもしれない」という先行きへの不安を感じて退職を決意していると思われるからです。 

ちなみに、HR総研の先ほどの調査に「会社を選択する際に最も重視する仕事の魅力」というものもありました。五者択一で、“仕事が面白そう”が53%、“スキルが身につく”が22%の上位2 つで3/4を占め、“若いうちから活躍できる”は 8%にすぎませんでした。

キーワードは、ワクワク・イキイキ 

採用難と人材流出。この2つに根底にあるのは、ともに組織としてのワクワク・イキイキ感だと思っています。 

新卒採用に関していえば、学生は、自分より少し上の先輩たち(=若手行職員)を見ています。 OB・OG訪問などを通じて先輩たちから“伝わってくる”ものが、ワクワク・イキイキとしたものであれば、マスコミが伝える地域金融機関の姿 がたとえネガティブなものであったとしても、 ポジティブなものへと上書きされるでしょう。 

人材流出(とくに若手層)についても同様で、 上司や先輩がワクワク・イキイキしていれば、仕事内容に関する先行きの不安を覚えることは少ないはずです。 

また、少し話は飛びますが、金融庁が以前実施した中小企業へのアンケートを見ると、メインバンクに本業の相談をしたことがない経営者は3割いました。その最大の理由は、「相談しても期待できないから」です。もし、地域金融機関の営業担当者がワクワク・イキイキとお客様と接することができていたならば、もっと相談をされていたのでは、と思います。 

本部棟の全脳ミソの30%は費やすべき

それならばと、リクルーターになる若手行職員 に「学生に会うときには、ワクワク・イキイキ を全面に伝えるようにせよ」、部⻑・支店⻑に 「職場のなかでワクワク・イキイキ感を出せ」、 営業担当者に「ワクワク・イキイキとお客様と接するように」と、お題目を唱えたところで、 それだけで根本的には何も解決しないのは、言うまでもありません。実態が伴っていないなかで語り振る舞わなければならない、ワクワク・ イキイキほど、辛く悲しいものはありません。 

さらに言えば、現在の状況は「人材のことなの で、人事部が、どうすれば行職員がワクワク・ イキイキできるか考えよ」といった具合に、どこかの部署が考えればなんとかなるような段階 を過ぎていると思っています。イメージで言え ば、本部棟にいる全部署・全役職員の脳ミソの 合計を100としたときに、少なくとも30くらいは費やして、ワクワク・イキイキに全体で真剣に向き合うぐらいのことまでをしないと、失ったものを取り戻せないでしょう。 

行職員がワクワク・イキイキとしていれば、他の戦略・戦術が多少稚拙でも、なんとかなりま す。逆に、どんなに良い戦略・戦術も、担い手に輝きがなければ、うまく行くとは思えません。 

地域のため、お客様の本業のため、お客様の夢のため、と地域金融機関が目指すものは、どれも素晴らしいです。ワクワク・イキイキと働く行職員の皆さんの力で、ぜひ実現してください。 そして、再び多くの夢をもった学生が門を叩き、 活躍し続ける、そんな世界を一緒に見ましょう。 本気で向き合えば、まだ間に合うはずです。 

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。