Vol.7 このままで大丈夫?! 経営計画のあり方を考える-1(2019.4.8)

『監督指針』の改正(案)が公表された

不定期発行の本ニュースレターですが、1月・2月は各3本発行できたのに対し、3月は0本となってしまいました。ダラダラといかぬよう、巻き直してまいります。 

さて、先日(4月3日)、金融庁から『中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)が公表されました。趣旨は、「地域金融機関が、将来にわたる健全性を確保し、金融仲介機能を十分に発揮していくため、早め早めの経営改善を促す観点からモニタリングの枠組みの見直しを行うもの」ということです。もちろん、皆さん読まれ、それぞれ感想を抱いたかと思います。 

キーワードは経営戦略・経営計画

私は金融機関の人間ではないので、完全なる当事者意識のもとに読むことはできませんが、コンサルタントという立場から読み、「経営戦略・経営計画」というキーワードが多用されていた点が目につきました。 

例えば、「経営陣は、的確な現状分析に基づき、 時間軸を適切に意識し、実現可能性のある経営戦略・計画を策定・実行しているか」「銀行が自らの経営理念・戦略に照らし、どのような金融仲介機能を発揮しようとしているか等を踏ま え、将来の収益・費用の見通しが盛り込まれた 経営計画等がその考え方と整合的になっている か、経営計画等を実行するために必要な人的資源が十分に確保・育成・活用されているか等について留意して検証する」のような形で、経営 戦略・経営計画への言及が複数個所でされていました。 

このように経営戦略・経営計画が強調されるのは、昨年来の金融庁の公表資料から一貫しています。昨年9月に出された『変革期における金融サービスの向上にむけて』のなかに、経営陣による適切な経営戦略の策定・実行の重要性が盛り込まれているのはもちろんのこと、その前、7 月に公表された『平成29事務年度地域銀行モニ タリング結果とりまとめ』でも、課題として提 示された3つの大項目のうち、2つが経営戦略 ・経営計画の策定や実行態勢に関する不備を指 摘するものでした。 

策定・実行の両面の確認が求められている

多くの地域金融機関で、3年〜5年程度の中期 経営計画を策定し、その策定年度(3〜5年に 1回)は、企画部門を中心に大変な労力を費やしています。ある地域金融機関の企画部門の方は、「何年かに一度やってくる、“参勤交代”のような苦しいもの」と言っていました。 

しかしながら、それだけの労力を費やし、かつ 経営の根幹となるものについて、「策定方法に問題はないか」「実行態勢は整っているのか」 と、策定・実行の両面から問を投げかけられているわけです。そこで、本ニュースレターでは、 経営計画の策定・実行について、3回にわけて確認をしていくことにします。

経営計画に「ありがち」な4つの姿

今号は、外部からいくつもの経営計画を見て、 そして経営陣や企画部門などと意見交換をして きた経験から、地域金融機関の経営計画に「ありがち」な姿を4つに整理してみました。まずは、自行(庫・組)に思い当たる節がないか、 チェックしてみてください。 

①形だけの経営計画 

  • 経営戦略・経営計画の策定とは名ばかりで、 戦略・計画の中身より、売上・利益の数字が 関心の主体 
  • 作り上げることが目的化してしまい、完成させることで満足。その後の実行段階には関心が薄い(意識は、策定>実行) 
  • 実行段階で気にかけているのは、計数の実績のみ。経営レベルでは、主要な施策であっても検討・準備状況を把握していない 
  • 単年度計画になると、「とにかく営業推進」 で中期計画との乖離や不整合まで散見される

②計画全体の不協和音 

  • 経営理念やビジョンで掲げた「ありたい姿」 と、個別の戦略とが結びついていない 
  • 並列している各戦略の結びつきが無い・弱い 
  • 資源配分(人員配置、等)を考慮すると、計画に掲げられた戦略が同時に成り立ち得ない
  • 計画全体の流れとは異なる「突然でてきた」かのような戦略・施策が盛り込まれている 
  • 手段である「施策」が、「ありたい姿」の 実現にむけ必要十分ではないと判明しても、 担当者は作業目線のため、当初言われた「施策」のみをとにかく遂行
  • 計数目標と、各戦略とが紐づいていない 

③現場は経営計画に無関心

  • 現場では、新たな経営計画のスタート時に、 部門⻑・支店⻑から説明を受けるだけ。それ以降、経営計画を思い出すことは皆無 
  • 「私(戦略・計画を)作る人、あなた実行す る人」。結果が伴わない原因を、「企画(戦 略・計画)が悪い」「推進(実行)が拙い」 と、本部間、あるいは本部と営業店との間で、 責任の押し付けあい 
  • 現場を動かす目標と、経営計画とのつながり が不明確なため、現場では「経営計画は自分とは関係ない世界のもの」という意識が蔓延 

④計数目標を達成しても幸せになってない

  • 計数目標は達成したが、経営理念やビジョン で掲げた「ありたい姿」には近づいた気がせ ず、行職員のイキイキを取り戻せていない 
  • 総括では「ありたい姿」も実現したとなって いるが、無理やりの解釈でそう発表しただけ 

さて、チェックの結果はどうだったでしょうか。 次号は、こうした姿をもたらす原因について考 えてみます。