Vol.9 このままで大丈夫?! 経営計画のあり方を考える-3(2019.4.9)

==Vol.8からの続き==

⑤過去踏襲・物まね 

昨今の地域金融機関をとりまく環境を踏まえ、 経営としては抜本的な検討を行いたいものの、 「担当部から、思い切った経営計画案がでてこ ない」という声を聞くこともあります。その理由の一つは、担当者が「前回策定時の資料を確認しながら、同じプロセス・分析をなぞっているから」ではないでしょうか。これでは従来と質的に違ったものが出てくるはずはありません。 

また、他行(庫・組)の取り組みを真似て、施策レベルでバラバラとつまみ食いすることもよく見られます。もちろん、自行(庫・組)に必要な取り組みであれば問題ありません。しかし、 全社的な観点でみると優先度が低いものや、他行(庫・組)の上っ面だけを真似て、成功するために「本質的に必要なこと」には対処しないまま、形だけつまみ食いすることもあります。 

さらには、頭取(理事⻑)が言った「あの銀行 (信金・信組)は、こんな取り組みをしているらしいな」という何気ない一言が、いつのまにか「頭取(理事⻑)からの実行指示」と受け止められ、本来は必要ないものまで、物まね導入されてしまうことまで起こっています。

【チェックポイント】

  • (変化したい場合)前回の経営計画と、根本的に違うことはあるか?
  • これまでの経営計画の策定手法・実行態勢を 振り返り、見直すべきものは手を入れたか?
  • 立案された経営計画は、必要な検討・議論を 踏まえたうえでのものと言えるか?
  • 全社的な優先順位も踏まえて、各施策の必要 性を説明できるか?

⑥実現プランの主管部任せ

経営計画で規定した戦略・戦術(施策)を、「いつまでに・どういう状態になっていたい (ありたい姿)」、そのために「いつまでに・ 誰が・どういうステップで実行する」という、 大事なことが曖昧なまま主管部にボールを投げてしまっているケースもよく目にします。 

こうした場合、多くは経営陣の思うペースよりも遅いスケジュールで実行されます。たとえば、 「経営計画の期間中に、従業員の満足度を高めイキイキ働く人を増やしたいから(ありたい 姿)、打ち手の一つとして人事制度も見直す」 という経営陣の思惑に対して、「経営計画の期間終了ギリギリだけど、きちんと人事制度の見直しを行ったから、文句は言われないはず」ということが普通に起こります。また、主管部としては当初やる気だったけど、必要な人的リソース(質・量)が整わなかったので出来なかった、という振返り評価もありがちです。 

経営計画を策定したら、実現プラン(ありたい姿の明確化&実行計画)までを主管部任せとせずに早々に作り上げ、計画策定段階での実現可能性を経営陣・企画部門として腹落ちできるよ うにする必要があります。 

こうした実現プランを策定できていなければ、期中の実行管理も、効果的に行えるはずはありません。

【チェックポイント】 

  • 主要な戦略・施策の実現プラン(ありたい姿 の明確化&実行計画)が作られ、経営陣としてゴール・進め方に納得しているか?
  • 実行計画の予実管理はできているか?
  • 実行計画からの遅れに対し、理由の明確化や打開策の検討は行われているか?
  • 人的リソースに関しては、実現可能性のある底上げ計画も練られているか?

コミュニケーション不足

経営計画の実現可能性を高めるには、それが社内で浸透していることが必要です。しかし、今、 経営計画の内容は理解されているでしょうか。 

残念ながら、経営計画というのは、行職員が積極的に内容を知ろうと思う類のものになっていません(本来は、ここから変えていかなければなりませんが)。となると10回伝えても、せいぜい頭に残っている内容は3割くらい、という前提にたったコミュニケーションが必要です。1 〜2回、しかも伝言ゲーム的に説明を受けたところで、理解浸透には程遠いものです。 

また「正しい戦略であれば / 正しいことを言えば、現場はそれに従う」という時代環境でもなくなっています。それ故、伝え方などについても、今までのような方法で良いかを見直す余地があるでしょう。 

【チェックポイント】

  • 経営計画の社内周知の量・質は、十分か?
  • 行職員は経営計画を腹落ちしているか?

「守・破・離」の「守」に立ち戻るとき 

Vol.7〜Vol.9の3回にわたり、経営計画について取り上げてみました。今回指摘したことは、 どれも経営計画の策定・実行のため「当たり前」のことです。だからこそ、従来の経営計画の策定手法・実行態勢のままで良いのか、確認してみて欲しいと思っています。 

武道などの世界には、有名な「守・破・離」と いう考え方があります。それぞれの金融機関では、これまで何度も経営計画を策定してくるなか、経営計画の策定・実行態勢は独自の「離」スタイルにまで行き着いたものになっています。 

しかし、それがこの環境下でそぐわなくなって いるのであれば、再度、経営計画の基本に立ち返って向き合ってみる(=「守」)ことが必要 ではないでしょうか。 

せっかく多くの工数・労力をかけて策定しているものだからこそ、経営計画の検討が「より良い機会」となり、そして経営計画自体が「より良いもの」になって、地域金融機関が強くなって欲しいと願っています。 

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。