「働き方改革」の成果
今年4月から「働き方改革法」が施行となりま した。それを待たずして、各地域金融機関では、 労働環境・労働慣習を見直す取り組みが進められ、2〜3年前とは職場環境が大きく変わり、 成果が出てきています。
なかでも最大の成果は、早帰り文化が根付いた ことでしょうか。とくに営業店は、夜遅くまで残業することが極端に少なくなったと聞きます。 組織全体の課題である収益力低下への対応策としての「残業代圧縮」にも結びつくため、行職員(早く帰れる)・経営(経費を抑制できる) の双方に利がある状態になったように見えます。
弊害も見えてきた
しかし、成果ばかりとは言えないようです。 「働き方改革」によって人が育つ環境を棄損してはいないでしょうか。 残業することに制約があるなか、たとえば営業 店では、以下のようにそれぞれの立場の人が、 成⻑機会を逸しています。
- 優秀な人:もっと多くのお客様と、じっくりと話をしたいと思っても、それを許す時間の余裕がなく、不完全燃焼感があり物足りない
- 普通の人:労働時間が減少した分、経験を積む「量」が減ってしまい成⻑スピードが遅くなる
- 遅れ気味な人:ほかの人に比べて仕事が遅いことを気にかけているものの、時間をかけてでも取り戻したり、修練することが認められにくいため、できる人との差は縮まらず劣等感がぬぐえず、心を病んでしまう
「人がすべて」である地域金融機関にとって、 こうした事象は、けっして軽くとらえるべきものではありません。私の勝手な願いですが、地域金融機関の皆さんには、ほかのどの産業の人よりも、早く大きな成⻑曲線を描いて欲しいと思っています。
成⻑には「時間」がどうしても必要
成⻑のためには、量(時間)と質(内容)の双方が必要です。昨今、なにごとも「効率よく」 がもてはやされる風潮がありますが、人の成⻑は、そんなキレイごとのようにはいきません。 時間をかけることで、初めて質の上げ方がわかることもあります。
私自身の話で恐縮ですが、若い頃は、とにかく時間を費やして必死に食らいついてきました。 時間をかけたからこそ、今があります。
新卒で入った生命保険会社では、厳しい支社⻑のもとで資料作成を任され、帰宅が終電後になることも珍しくありませんでした。しかし、ここで鍛えられたことで、仕事力は同世代の中で も上位になれたと信じています。
次に入った外資系のコンサルティング会社は、「5年間勤めれば⻑期勤続表彰がもらえる」という、厳しい世界でした。MBAを持っているわけでも、天才タイプでも、コンサルタントとして活かせる明確なスキルを有しているわけでもな かった私は、クビにならないように、そして少しでも価値を発揮できるように、最初は、とにかく時間など気にする余裕もなく働きました。 会社に寝泊まりしたことも数知れません。こうして若いときに時間をかけてでも食らいついたからこそ、次第に成⻑を実感することができ、 気づけば退職までに3回も⻑期勤続表彰をもらうに至りました。
意欲に基づく残業は積極的に認めるべき
もちろん、「成⻑のためには時間も必要」だからといって、根性論を強く押し出したり、⻑時間労働を容認するわけではありません。
不要不急で本人が望まない残業、大事なプライ ベートでの用事を犠牲にしてまでの残業、上司の顔色だけを気にした残業、付き合い残業、そもそも⻑時間働かないと終わらない設計のもとでの残業など、「働き方改革」以前に見られた残業は撲滅が必要です。
そのうえで、本人の「もっと成⻑したい」「仕事が楽しい」「早くみんなに追いつきたい」という意欲を、「働き方改革」の名のもとで、削ぐことがないよう進化が求められます。理想形は、こうした意欲に基づく時間も、業務の抜本的な見直しにより通常の勤務時間内に盛り込む (=残業しないで済む)ことですが、そう簡単にはいきません。故に「働き方改革」を、意欲に基づく残業は、積極的に認めるステージへと進ませるべきだと考えます。
所属⻑まかせでは機能しない
これに対して、「いまでも残業は一律に禁止し ているわけではなく、所属⻑に申請することで認めている」という声もあろうかと思います。
もちろん、その仕組みが行職員の「成⻑」のために機能しているのであれば、申し上げることはありません。
他方で、「組織別の残業時間の一覧表が開示」され、「残業時間は短いほうがいい」という価値観のなか、「短期的な成果に結びつくわけではない成⻑のための残業」を積極的に容認する気概のある所属⻑は、どれだけいるでしょうか。
具体的な仕組みの設計が簡単ではないのは理解しますし、どのような形になるにせよ所属⻑の判断(意欲に基づく残業か、意味のない残業かの見極め)に頼らざるを得ないとは思います。 それでも組織の意思として、「働き方改革」を 残業抑制一辺倒から、行職員の成⻑にむけたものへ進化させる時が来ています。地元の多くのお客様から「さすが、○○銀行(信金・信組) さんは、いい人が育ってますね」と(再び)言われるようになって欲しいと願っています。
以上、髙橋昌裕からのYELLでした。