Vol.17 前・中期経営計画の「総括」を見て思うこと(2019.8.6)

振り返ったうえで次に進む

新たな中期経営計画の公表とあわせ、前の中期経営計画の「総括」「振り返り」を公表している地域金融機関は、少なからずあります。 

「これまでを振り返ったうえで、次へと進む」 というのは、望ましい姿です。もちろん、総括を外部公表せずとも、行(庫)内できちんと振り返りができていれば、なんら問題ありません。 

今回は、公表ベースでの「総括」を見て私が 思ったことを、題材にします。 

知りたいことに答えられているか

…と言いつつ、いきなり話を地域金融機関とは 関係のないところに振ります。 

ケース1:
Aさん・40歳の男性 最近、お腹まわりが気になり始めたとともに、 人間ドックでもC判定の項目がチラホラでてきたため、1年計画で人生初のダイエットを決断 

ケース2:
Bさん・27歳の独身男性。 ここ数年、異性とのお付き合いなし。 しかし、結婚まではいかずとも、30歳までに異性からモテモテになるよう自分磨きを決意 

さて、こんな知人がいたとしましょう。ケース 1なら1年後、ケース2なら3年後に、Aさん・ Bさんに会ったとき、それぞれどんなことを確認したいでしょうか?
多くの方は、Aさんには「ダイエットの成果はあったの?(痩せたの?)」、Bさんには「モテるようになった? 彼女できた?」と聞くはずです。 

さて、それに対してAさんの回答が「スポーツクラブの上級会員になって、週1回、1年間、 欠かさずに通った」「通勤時には1駅手前で降りて歩くようにした」「食事は腹八分目を心がけた」というものだったとしたら。 

またBさんも「スタイリストの友人の力を借りて、着る服や髪型を今風のおシャレなものにした」「メンズエステにも3回行った」「英語ができた方が魅力的だと思ったので、skype英会話を週1回、続けた」「出会いの場も多い方がいいから、異業種交流会に年10回、合コンも毎月1回は参加した」「昨年からは、学生時代の経験を活かして、週末は副業でテニススクールのインストラクターをやるようになった。そこには同世代の女性も多く通っている」という回答だったとしたら。 

隔靴掻痒” 

「多くのことをやったのは立派だけど、一番知りたいのはそういうことではない」 

そう思うはずです。知りたいことの核心に触れられておらず、もどかしさばかりが募る、まさ に“隔靴掻痒”(かっかそうよう)の状況と言えます。 

計数目標と実施事項の列挙

さて、ここで話を地域金融機関に戻します。 

公表された前・中期経営計画の総括を見ると、 Aさん・Bさんと同様に思えてなりません。 

「⻑期ビジョン」「目指す姿」を掲げスタート した中期経営計画なのですから、総括で知りた いのは「⻑期ビジョン」「目指す姿」への到達状況です。 

にもかかわらず、総括で言及されているのは、 利益項目など計数目標の達成度と、具体的にやったことの列挙のみ、というケースがほとんどでした。こうしたものを見ると、「全行 (庫)を挙げて、本気で⻑期ビジョンや目指す姿の実現に向けて動けていたのかな」と疑問を抱いてしまいます。この点が、総括を見てもっ とも残念に思ったことです。

⻑期ビジョンを測れるものに

前号(Vol.16 「『理念』『⻑期ビジョン』が やはり大事」)で、実現可否が測れない目標は 推進力・実行力が弱くなりがちなので、⻑期ビジョンも実現可否を測れるように、と書きまし た。測れるようにするからこそ、総括で到達状況を確認してみて欲しいのです。 

もちろん、⻑期ビジョンが定量的なもので定められているならともかく、多くは定性的なもののため、測定は容易ではありません。 

容易ではありませんが、やりようはあります。 私は顧客アンケートでの測定を推奨しています。 

たとえば、⻑期ビジョンが “地域の中小企業に信頼され、最初に選ばれる金融機関になる” というものならば、アンケートで5段階評価をしてもらうことで、到達度が見えます。 

・御社にとって、当行(庫)は信頼に足る存在に なっていますか? 

・御社にとって、当行(庫)の営業􏰁当者は信頼 に足る存在になっていますか? 

・御社に金融関連のニーズが生じた際、当行 (庫)は最初に相談する金融機関でしょうか? 

・御社の本業に関しニーズが生じた際、当行 (庫)は最初に相談する金融機関でしょうか? 

アンケートを意味あるものにするための対象者の選定方法・質問の設計方法などのテクニックは必要ですが、適切にアンケートを行うことで、⻑期 ビジョンの到達度は測れます。もちろん、アンケート以外の手法でも構いませんが、せっかく 「⻑期ビジョン」「目指す姿」を掲げるならば、 達成度も見えるようにして欲しいところです。 

飾りものではない「⻑期ビジョン」「目指す姿」 で全行(庫)をドライブし、地域金融機関をもっともっと強く、そんなことを願っています。 

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。