Vol.40 『伴走型支援』のために強くなろう(2021.7.9)

地域⾦融機関の存在価値が強まるとき

東京は、4回目の緊急事態宣⾔の発令が決定しました。私の仕事⾃体は、昨年からコンサルティング・講演・研修と、ほぼ全てがオンラインに置き換わっているため、直接お会いできない寂しさはありますが、大きな影響はありません。しかし、事業に苦しむ中小企業がさらに増えてしまいそうな点が気がかりです。だからこそ、中小企業をサポートする地域⾦融機関の皆さまの存在価値が、より一層、強まるものと信じて疑いません。

『伴走型支援』を知らない若⼿

最近、ある地⽅銀⾏の若⼿有志の⼈達むけに、オンラインで研修をしました。参加者は、日々、お客様対応を頑張っている営業担当者です。

話のなかで、⾦融庁がキーワードとして使っている『伴走型支援』について触れたのですが、8割の⼈は「知らない」という反応でした。想定通りではありましたが、残念です。愛をこめて「⾃分たちの業界についてすら知らない⼈が、お客様の業界を理解して事業性も評価するなんて無理だよ」と⾔いましたが、これは偽りのない本音です。

私なりの『伴走型支援』の解釈

こうした機会があったので、私が“解釈”する『伴走型支援』について伝えました。起点にしたのは「伴走」という⾔葉です。頭の中に「24時間テレビのマラソンの伴走者」「目が不⾃由な⽅のマラソンの伴走者」「箱根駅伝の伴走者(⾞の中にいる監督)」もイメージしました。

1)ゴールを理解しずっと一緒

ゴールを知らない伴走者など、成り⽴ちません。

『伴走型支援』をする大前提として、お客様が大事にする価値観、⾒据える将来、目指すゴールの理解が必須なのは、⾔うまでもありません。

コロナによって、多くの事業者・⼈の環境、そして価値観は変わりました。お客様が抱いていたBeforeコロナ時代の「ゴール」は、すでに別のものに置き換わっている可能性もあります。“いま”、お客様の思い描く「ゴール」は何かしっかりと理解してこそ、伴走の一歩目を踏み出せます。

「ゴール」の理解は、拙著『ゴールベース法⼈取引』でも書いていますが、コロナの時代になっても変わらず重要(むしろ、重要度が増した)と思っています。

そして、「伴走」と近い⾔葉に「寄り添う」があります。「寄り添う」が、相⼿との距離の近さをあらわすのに対し、「伴走」は、近さに加え、同じ⽅向に進む・ずっと一緒にいる、と⽅向性と時間軸も含んでいます。

今期の融資、来期の⼿数料、といった⾃⼰都合での短期視点ではなく、お客様の思い描く「ゴール」までを⾒据えた時間軸でご支援をするのが『伴走型支援』です。

2)⾃分事としてとらえる

先にイメージした伴走者は、伴走相⼿がゴールできれば(時間内の完走、目標タイム・順位を上回るetc)、⾃分事のように嬉しいはずです。

他⽅で、うまくいかなかった場合は、どうでしょうか。これは、伴走者の「資質」によりそうです。良い伴走者は、本気で悔しがり、⾃らの伴走に反省すべき点はなかったか、練習段階で気付けなかったことはないか、どうすればゴールを達成させてあげることができたか、次に何が活かせるかを、まさに⾃分事として考えます。悪い伴走者は、⾃分はやるべきことをやったが、ゴールできなかったのは相⼿の⼒不⾜だから仕⽅ない、と思っていそうです。

いま地域⾦融機関に期待されている『伴走型支援』は、「⾃分事」としての心をもった対応です。

それだけの、本気度と思いやりが求められているわけです。

3)強くあることが必要

伴走相⼿よりも⼒のない伴走者、というのも理屈上は成り⽴たなそうです。

たとえば24時間テレビのマラソンで、マラソン未経験の芸能⼈ランナーに遅れをとって、なんのアドバイスもできない伴走者など、役⽴たずですからね。ただし、箱根駅伝で監督が⾞からアドバイスしているように、同じ⼿段(走る)・目線での強さが必須というわけでもありません。

ポイントは、ゴールに辿りつくための適切なアドバイスが、その⼈ならではの目線でできるかです。これが『伴走型支援』における強さです。

付け加えると、支援にむけた「適切なチーム」を組成できることも、強さになります。

ゴールまでの全てを、伴走者が⾃ら支援することなど現実的ではありません(24時間テレビのマラソンでたとえると、休憩中のマッサージなど)。⼿を動かすことは適切な⼒をもったチームメンバーがおこない、チームとしての総合⼒でゴールにむけて支援できれば合格です。

地域⾦融機関における『伴走型支援』も、⾃分達だけですべての支援を完結させる必要はありません。『伴走型支援』者たる地域⾦融機関は、お客様の「ゴール」実現にむけて、いつ・何が必要か、⾦融機関の目線や外部だからこその目線で気付いたことをアドバイスし、その具体的な支援は適切な外部パートナーに依頼をできれば、それで十分です。


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『伴走型支援』を、難しくて⼿が届ないものと思われてしまうのは本意ではありません。他⽅で、覚悟と強さがないと実効性ある『伴走型支援』ができないのも一面の真実です。

順風満帆なお客様は少ないと思います。それでも、お客様の思い描くゴールにつながるよう、地域金融機関の皆さまが『伴走型支援』をさらに進め、そしてそれに若⼿中堅⾏員が「働き甲斐」を感じるようになってくれることを期待しています。

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。