若⼿の早期離職が増えている
「若⼿の早期離職が増えている」という話をよく聞きます。採用難のなか、ようやく確保した人材が早期に離職をしてしまうのは、痛⼿なのは間違いありません。今回は、このテーマを掘り下げてみます。
なお、やや刺激的なタイトルにしたので、最初に補足説明をしておきます。けっして「地銀業界に居続けるのは不健全」という意味でも、「早く辞めるべきだ」という意味でもありませんので、誤解ありませぬよう。
何がやりたいか分からないまま就職
私は、新卒で生命保険会社に入社しました。採用面接では、付け焼き刃で、あれこれ志望動機を語りましたが、本音を言うと生保業界に強い思い入れがあったわけではありません。モノづくりに興味はなく、銀⾏も(当時は)何をしているのか実感を持てなかったため、イメージが付きやすく、大企業で、採用数も周囲で志望する人も多かった、生保・損保業界を志望したのが本当のところです。⻑い社会人人生のスタートにあたり、⾃分が⼼から何をやりたいのかは分からないまま、就職しました。
地⽅銀⾏の場合、採用面接時の志望動機で多いのは「地元の地域社会の発展に貢献したい」「地元企業の経営者をサポートすることで、地域に元気な企業を増やしたい」といったところでしょうか。これは素晴らしいことです。しかし、昔の私のように、本⼼では何をやりたいか分からぬまま志望動機を語り、就職している人も多いのではないでしょうか。
⾃己弁護するわけではありませんが、褒められないにせよ、ダメなこととは思いません。むしろ、主流派なのではとも思います。
やりたいことを⾒つけられた
一昔前は、転職など異例中の異例のこと(裏切り者か、変わり者扱い)で、最初に入った会社で社会人人生を全うするのが「当たり前」でした。やりたいことが分からぬまま入社しても、組織の中でキャリアを過ごしていくうちに、強いやり甲斐を⾒つける人は多くいました。他⽅で、そこまでのやり甲斐を感じることなく、与えられた目標・役割をこなすことに精一杯のままキャリアを進め全うする人も少なくなかったでしょう。
これに対し、今は転職という選択肢も「当たり前」です。この点が、経営層・管理職層の育った時代環境とは大きく異なります。
こうした時代にあっても、多くの人は日々の業務におわれ、⾃分が本当にやりたいことを⾒つけ(考え)られていないのではと思います。これを不健全とは思いません。
しかし、そんななか、社内外での知⾒・経験・刺激を積み重ね、入社5年目くらいまでの早いタイミングで「他にやりたいことを⾒つけた」と別の道を志す(=転職する)人は、それだけ⾃分⾃身や(未熟ながらも)社会とも向き合い、考えてきたわけですから、⾃⽴した「健全な人材」と言っていいのではないでしょうか。少なくとも、不満を抱え、仲間内で組織への愚痴を吐きながら仕事を続ける人よりは、はるかに健全です。
早期離職への対応策
もちろん、⾃分⾃身や社会と向き合える人材を失うのは、惜しいことです。将来有望な人材を繋ぎとめる対策は必要でしょう。
このとき若⼿に「もう少し⼒をつけると、地域社会への貢献もできるようになるぞ」と飴を語るのは的外れの可能性があります。それは、「採用面接用」のやりたいことかもしれないからです。
いくつかの地⽅銀⾏では、管理職層に「若⼿の早期離職を防ぐように対策を」と指⽰を出したと聞きました。具体的な内容は把握していませんが、私だったら管理職層には「活気ある・笑顔ある職場を作る」ことを対策として期待します。若⼿に何かをするのではなく、⾃身が職場を良くするのです。
ちなみに、若⼿が「仕事が面⽩くない」と思う際の時制は、現在だけでなく、未来も含まれています。同じ職場で働く上司・先輩を⾒て、楽しそうに感じられないときに、そこに⾃分の将来も照らしあわせ「面⽩くない」と感じるのです。
職場に活気と笑顔があれば、前向きな気持ちで働くことができ、前向きであるが故に、楽しく働く上司・先輩を⾒て、⾃社でのやり甲斐・やりたいことを⾒つけやすくなります。だからこそ、職場を良くすることが、早期離職の対策になります。
流出だけでなく流入も
ここまで、早期離職で銀⾏を離れる人に焦点を当ててきました。しかし「他にやりたいことを⾒つけた」と転職する人は、どの業界・会社にもいます。地⽅銀⾏として、人材流出の一⽅通⾏では、面⽩くありません。⾃⾏の魅⼒を⾼め、社外の若⼿に「⾃分がやりたいことは、地⽅銀⾏でなら叶えられそうだ」と思われ、第二新卒の採用・育成なども含め受け入れ体制も整えたいところです。
なお話は変わりますが、人の流れという観点からは、副業も同様です。今は、⾏職員を副業に「出す」ことの検討・対応が主ですが、社外の人を銀⾏での副業に「入れる」ことも、多様性・刺激・学び・戦⼒の観点から考えてみる価値はあります。余談ですが、私は3年ほど前に、ある地域⾦融機関のトップとの雑談の場で「銀⾏の仕事に憧れている」という話をしたら、「週に2日でも副業で働きにこないか」と言われました。柔軟な発想に驚いたのを覚えています。
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人がすべての地⽅銀⾏で、多くの人がやり甲斐を感じ、活気と笑顔に溢れる地域⾦融機関が増えることを楽しみにしています。
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以上、髙橋昌裕からのYELLでした。