Vol.52 理想を掲げるから変革ができる(2022.9.23)

4か月半ぶりの発行

Vol.51の発行から、4か月半が経ちました。この間、何名かの方から「無事か?」のご連絡をいただいてしまい恐縮です。春以降、全国の地方銀行への「出張」仕事が復活の傾向にあり、おかげさまで対面+オンラインの双方で、ややオーバーペース気味に仕事をしていました。

もちろん、OFFの日もあります。しかし、3年前から始めたアマチュア無線にのめり込み、OFFの日はニュースレターの“更新”ではなく、無線の“交信”に時間を割いてしまいました。

理想よりも低い目標を掲げている

出張先で、ある地方銀行の役席の方と雑談をしたとき、帰宅時間の話題となりました。若手層の残業抑止のシワ寄せが役席にきていて、銀行を出るのは連日21時前後だそうです。そこで私は「何時に銀行を出たいですか」と尋ねたら、「19時30分~20時には銀行を出たいです」と回答がありました。現状より1時間以上早く帰宅できたら、心身ともに余裕ができますよね。

しかし、私は釈然としません。17時は言い過ぎにしても、18時に銀行を出たくはないのでしょうか。問いかけると「もちろん、18時に出られるなら出たいです」と言っていました。ではなぜ、最初からそう言わないのでしょうか。

これを「目標設定」の問題と捉えると、似たことは、銀行内のあちらこちらで起きています。

  • お客様アンケートの満足度平均が73点だった。中計期間中に80点にしよう
    ⇒100点は非現実的だとしても、95点を目指さないのはなぜ?
  • 事務ミスが昨年は25件だった。今年は15件以内にしよう
    ⇒0件は無理?せめて5件以内を目指しては?
  • 営業担当者の顧客面談時間は、現状3.5時間/日。これを4時間/日にしよう
    ⇒5時間以上/日にできたらもっと良いのでは?

等々。理想とは乖離した目標設定に溢れています。

あきらめ・文化・目標の呪縛

こうした目標を掲げてしまうのは、以下の理由によるものでしょう。

1)あきらめ

理想の姿はどうせ実現できないからという、勝手な“あきらめ”マインド。次第に、理想を考えることすらせずに、その手前の実現できそうな現実路線で思考を止めるクセがついている

2)夢を語るのを許容しない文化

会議で「18時に銀行を出たい」「顧客満足度は95点を目標にしたい」と発言したら、「そんな夢物語はいいから、もっと現実的なことを見据えろ」と一蹴されてしまう企業文化。また、周囲が現実路線ばかりなので、夢を語ることは恥ずかしく自分の胸の中にとどめてしまう

3)達成は〇・未達成は×という目標の呪縛

目標を達成すると〇(褒められる)、未達だとX(評価が下がる)ので、理想よりも達成できそうな水準を重視する判断基準が染み付いている

低い目標が組織を不幸にすることも

いずれも、気持ちはよく分かります。しかし、理想に至らない低い目標が、本当に組織を幸せにするのでしょうか。これに関して、以前、ある地方銀行の頭取から、次のような話を聞きました。
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現場営業力の強化のため、本部⇒営業現場への人員シフトを進めたくシミュレーションをしたところ、30%の本部人員減が必要だったそうです。しかし、30%という数字は大きすぎて可哀そうと思う優しさが働き、目標を下げて10%程度の水準を打ち出しました。

結果、人員シフトの目標は達成しました。しかし、本部行員の疲弊・不満は増大してしまったそうです。なぜなら、人員減の分を、残ったメンバーがカバーをして補ったので、忙しさが増すことになったからです。

この結果は、もちろん、頭取の狙ったことではありません。人員減は、業務の変革(廃止・簡素化)でカバーし、残ったメンバーの負荷を上げるつもりはありませんでした。頭取は、「目標を下げるのが優しさだと思っていたが、誤りだった。理想とする高い目標を打ち出せば、“残りのメンバーがもっと頑張る”という打ち手で対処できないことは明白なので、業務の見直しへと各部が動き、変革を伴う良い形で本部業務の再構築・人員シフトができていただろう」と悔やんでいました。

夢を掲げるから打ち手に具体性が伴う

理想よりも低い、達成できそうな水準の目標を据えると、打ち手の議論が曖昧になります。ともすると、「もっと頑張る」「効率的に仕事をする」といった具体性のない精神論にとどまり、下手すれば、成り行き任せになってしまいます。目標が低い分、達成できたとしても、待ち受けるのは疲弊と、持続性への懸念です。

他方で、理想に基づいた目標を掲げると、現状とのギャップが大きいが故に、打ち手を精神論に委ねるわけにはいきません。知恵と工夫でなんとか策を見出そうと頭を捻ります。理想の実現は嬉しいわけですから、検討も真剣味を帯びるでしょう。当然、現状の何かを変えないとダメだという思考となり、これが「変革」へとつながります。
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もしも、自分のいる組織(銀行全体だけでなく、部店単位も含めて)で「変革が起こらない」と問題意識を持っているなら、理想を掲げられているか、という点を振り返ってみてください。理想の共有、そして実現に向けた意見交換が活発になされ、活力に溢れていくことを期待しています。
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以上、髙橋昌裕からのYELLでした。