“残念”体験への共感
前2号では、銀⾏での相続手続きの実体験を通じて感じた”感心”体験、“残念”体験を書きました。
両⽅を読んでくれた、⾦融機関「以外」の知⼈の何⼈かから、ご自身の相続手続き体験を踏まえて“残念”体験への共感の声が届いています。内容こそ違えど、“残念”体験をした⼈は少なからずいるようです。
チェック体制、⼈材育成など、出来ることから⾒直しを進め、“感心”体験をする利⽤者が増えていくことを期待しています。
相続預⾦の他⾏流出
今号では、相続体験のいったんの最終回として、「相続預⾦の他⾏流出」について、考えたことを書きます。
⾦利のある世界が復活し、預⾦の減少が話題になる機会が増えてきました。特に、地⽅部で懸念が大きいようです。一因として、相続に伴う相続預⾦の都市部への流出(=相続⼈が普段使いする銀⾏⼝座への流出)があり、分かりやすい事象なので、抑止策を検討・実施している銀⾏も多いかと思います。
そうしたなかですが、結果として私は、解約した⽗の⼝座にあったお⾦は、すべて私が普段使いしている銀⾏へと移し替えました。銀⾏から⾒ると「他⾏流出」です。
これは、相続開始時から決めていたわけではなく、手続きを進めるなかで、自然となっていきました。理由を振り返ってみます。
残す理由がなかった
1)面倒くさい
銀⾏での相続手続きは、手間と時間がかかり、⾯倒くさかった、というのが率直な感想です。
銀⾏としては、トラブルが発⽣しないよう厳格な対応が必要なため、簡便な手続きにできないのは理解しています。
しかし、利⽤者として、⾯倒くさいと思ったのは事実で、それはポジティブな体験ではありません。
「⾯倒くさい=>早く関わりを終わらせたい」
という心の動きとなり、取引を同⾏で継続しようとは思いませんでした。
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2)メリットなし
相続した預⾦を、同じ銀⾏に留めるメリットを、何一つ感じませんでした。正確に言うと、相続預⾦の振込手数料が他⾏宛だと770円かかるけど、自⾏宛だと減免される、といった程度でしょうか。
しかも、その説明も事務的な“乾いた”記載に過ぎず、同⾏にお⾦を留めよう、という心の動きにはつながりませんでした。
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3)導線なし
仮に、同じ銀⾏に預⾦を留めようと思っても、自分が⼝座を持っていなければ、⼝座開設が先に必要です。しかし、相続手続きの書類には、⼝座開設への導線はなく、「どの銀⾏でもいいから、既にある⼝座を指定して書け」となっています。
相続手続きを早く終わらせたいので、わざわざ⼝座開設の手順を調べ、開設手続きをした後で、と思うはずはありませんでした。
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4)リレーションなし
当たり前ですが、私は、⽗が預⾦していた銀⾏の担当者との接点も情報もありませんでした。
それ故、「あの⼈は、これまで良くしてくれていたらしいから、少なくともすぐに他⾏にお⾦を移すのは申し訳ないかな」といった心理的な障壁は皆無でした。
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5)勧奨なし
相続手続きの書類記入は、完全な“事務”手続きでした。相続センターとの電話+郵送で完結する銀⾏が多く、⽀店が絡むケースでも記入した書類に不備がないかチェックする“事務”対応だけです。
一連の過程において、相続預⾦を自⾏⼝座に留めてほしいという勧奨(広義での相続“業務”だと思っています)は、今回手続きしたすべての⾦融機関でありませんでした。
そのため、銀⾏としては相続預⾦の他⾏流出が決定する、「振込先記入」のその瞬間において、なんら迷うことなく自分が普段使いしている銀⾏⼝座を書きました。
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私の場合は、地元を離れているわけではなく(東京です)、⽗が使ってきた⾦融機関は遠隔地というわけではありません。それでも、相続した預⾦をその銀⾏に残さなかったのは、「残す理由が何もなかったから」だと言えます。
「悪あがき」でもやらないよりマシ
改めて、私自身の体験を振り返ってみると、相続開始の時点で、すでに勝負が決していたことや、どうしようもないこともあったと整理できます。
しかし、特に地⽅部の⾦融機関の場合は、相続預⾦が一度でも都市部の⾦融機関に移ってしまえば、復活は望めません。だからこそ、相続預⾦の振込先に、なんとしても自⾏の⼝座を書いてもらえるような手⽴てが、今以上に必要でしょう。
相続手続きのタイミングだと、すでに勝負が決した後の大逆転を狙う、最後の「悪あがき」になるかもしれません。それでも、やらないよりは、やった⽅がマシです。打てる手はすべて、打ってみればいいと思います。
たとえば、アイデアレベルですが、前述の2)、5)を踏まえ、相続預⾦を「そのまま自⾏内に留めた(=振込先に自⾏⼝座を指定した)場合」にだけ優遇される相続定期預⾦があり、チラシを相続手続き書類に同封して送り、担当者が一言でも勧奨すれば、同⾏にしばらく預⾦を置いておく相続⼈がでるかもしれません。ここで少しでも時間稼ぎができれば、その間に次なる策は採り得ます。
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地元に所縁がある⼈との、世代を跨いだ取引は、地域⾦融機関の目指す一つの姿です。相続があってもお客さまとの関係が永く続いていく、そんな地域⾦融機関が増えるといいなと思っています。
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以上、髙橋昌裕からのYELLでした。