「支援」に感じる高い壁
ある地方銀行にて、営業店の若手行員と意見交換する機会がありました。そこで改めて感じたのは、「支援」という言葉の持つ“重さ”です。
皆さん「事業者支援」の必要性は理解しているものの、どこか距離を置いている感じがしました。どうやら背景には「自信のなさ」があるようです。
「経験が足りないから」「専門知識がないから」「難しすぎるから」自分にはできそうもない。
なるほど、気持ちはよく分かります。そして、「支援」という言葉が、いたずらに心理的ハードルを上げてしまっていることがわかりました。
「応援」すると幸福度が高まる
少し話は飛びます。
最近の心理学研究によれば、人は誰かを「応援している」ときの方が、「されている」ときよりも幸福感が高いという結果が出ているそうです。
たとえば、米国の心理学者の研究では、他者への親切な行動を日常的に行う人ほど、主観的な幸福感が高い傾向があると報告されていました。日本でも同様です。ある研究では、1週間にわたって親切な行動を意識して記録することで、主観的幸福度が向上したという調査結果があります。
いま、「応援」の価値は、社会のあらゆる領域で注目を集めています。クラウドファンディング、SNSでの“いいね”、スタートアップ支援などは、「誰かの挑戦を応援する文化」が根づきはじめている証です。社会現象にもなっている「推し活」も応援の一種と言えるでしょう。
余談ですが、先日、趣味が興じて定期的な「落語会」の主催者になりたいと私は妄想を口にしました。すると、すぐに応援してくれる人が何人もあらわれ、とても心強く感じたのを覚えています(応援に背中をおされ、落語家さんへの出演依頼、会場確保など、実現にむけ一気に進みました)。
・一部の成功者だけがもてはやされるのではなく、数多の頑張る人・挑戦する人が応援される時代
・応援する人自身が、大きな幸福を感じる時代
そんな「応援の時代」が、始まっています。
まずは「応援」マインドを持とう
冒頭の話に戻ります。
「支援」という言葉からは、より具体的で成果に直結するモノが連想されます。それに対し「応援」は、もっと気軽で精神的なココロを感じます。
・支援:専門性・成果・責任感
・応援:共感・気軽さ・関わりしろ
こんなイメージの違いがあります。
なんとなくできそうな気がする
自分にも関われる気がする
この感覚が大事です。「支援」と「応援」、言葉遊びに思われるかもしれませんが、“言葉の力”によって、人の行動は大きく変わります。
だからこそ、特に若手行員には「支援」は難しいと尻込みをするのではなく、まずは「応援」マインドを広く持って、お客様と接してほしいと思います。そのなかで、支援につながる相手やテーマが見つかれば自然に次の一歩を踏み出せるでしょう。
「応援」が文化になる組織
応援は、営業店だけの話ではありません。
いま、地方銀行にとって必要なのは、応援を制度や戦略ではなく、“文化”として組織に根づかせることではないでしょうか。
それは、「人の挑戦を歓迎しよう」「誰かの頑張りに手を差し伸べよう」という空気が、組織のなかに自然に流れている状態です。
言葉にしなくても伝わる“応援の磁場”が、日々のやりとりの中に漂っている。
そんな文化を持つ組織は、強いです。
そして忘れてはならないのが、応援には「幸福感を高める力」があるということです。心理学の研究でも示されたように、人は応援することで、自らの存在意義や前向きな気持ちを実感することができます。職場においては、働く喜びとやりがいにつながるでしょう。
行員が仕事を通じて幸福感を持てること。
これは、地方銀行の持続可能性に直結する大切なテーマです。だからこそ、「応援する文化」を本気で育てていくことに、真剣に向き合う価値があるのだと思います。
再び余談ですが、弊社BRAVEYELLの社名は、変革に立ち向かう勇気(BRAVE)を応援する(YELL)という思いを込めた造語です。応援が、変化を起こす源になると信じて名付けました。
金融庁も「応援」庁に
応援の価値観は、地方銀行だけでなく、金融庁にも当てはまると思っています。
かつて金融「処分」庁と言われた厳格な監督機関は、一転して金融「育成」庁として金融機関の行動変容を後押しする存在に変わりつつあります。
この変化は歓迎するものですが、新たな取り組みに対して「金融庁に事例を示してほしい」「ベストプラクティスをもっと教えてほしい」といった「育成」者に甘えるマインドが、一部の金融機関に生じているのも感じています。
「処分と育成」という、「振り子の右と左」から次のステージに進むとしたら、私は金融「応援」庁的な立ち位置ではないかと思っています。
地銀が自らの意思と覚悟で地域の未来を担う挑戦をするとき、その取り組みをともに信じ、見守り、ときに伴走してくれる存在。それこそが、これからの金融行政のスタンスではないでしょうか。
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応援する存在は、やがて応援される存在にもなります。“応援の地場”による優しさに溢れた地域金融機関が増えたらいいなと思っています。
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以上、髙橋昌裕からのYELLでした。