Vol.4「どこに行ってもウケない話」で、地域 金融機関の若手職員で渋沢栄一のことを知らな い人が多いことを嘆き、それを役員・部⻑の方々にお話しても「まぁ、そんなもんかもしれませんね」という反応が多く、どこで話をしてもまったくウケない、ということを書きました。
ところがその後、ご存知のように新一万円札の肖像が渋沢栄一に決まりました。発表のあった数日後、ある地銀の役員さんから以下のようなメールをいただいたので紹介します。
**(掲載許可 受領済)**
私も実は「そんなもんでしょ」と思ってた一人。 ところが、先日の一万円札の肖像に渋沢栄一が 決まったという報道を見て、高橋さん(ニュー スレターの内容)を思い出すとともに、若手行員に対し、人としての基礎教育ができていなかったと痛感した。お札の肖像になるような人で、銀行にも深く関係する人を「知らなくても仕方ない」ぐらいに軽く思ってたんだから。
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喜んでいいのか分かりませんが、なんか嬉しく思いました。
「ありたい姿」が経営計画レベルアップの鍵
さて、前書きが⻑くなりましたが、今回の本題に移ります。Vol.7~Vol.9にかけて「経営計画」 を題材に書いたところ何件か問い合わせをいただきました。その内容は表面的には各々違うものの、根源的には「経営計画をレベルアップするために、大事なことは?」というものでした。
この点について私は、経営計画の根幹であり、 検討の起点となる「ありたい姿」を、もっともっと具体的に考えることだと思っています。 企画部門による「見栄えのよい作文」レベルで は、まったく足りません。
経営理念で普遍的に謳っていることをベースに、 これからの5年、10年を見据えて、どんなふうになっていたいかを、実現イメージが目に見 える(=こうなって初めて、組織全体が具体的な同じ姿に向かって進める)くらいにまで、ト コトン考え抜くことが必要です。
「ありたい姿」は各社多様でいい
「ありたい姿」に、唯一絶対の正解など存在し ないことは言うまでもないでしょう。もちろん、 金融庁が解を持っているわけでもありません。
経営理念、地域性、行職員に伝わるDNA、現経営トップの経営観、地域や金融に関する将来展望などを踏まえ、それぞれの「ありたい姿」 を考え、目指して欲しいと願っています。
そして、各行(庫・組)で「ありたい姿」に違いがあり、多様なほうが、地域/日本は元気になるよう思います。そもそも日本は古くから、 唯一にして万能の力をもつ“GOD”よりも、太 陽・月・石・山・犬・馬・竈・便所など万物あらゆるモノや、凶事・悪事・好事などの事象それぞれに神様がいる“八百万の神”に親和性のある価値観を持っています(ちなみに、“八百万の神” という言葉は、日本最古の歴史書である古事記の中ですでに「八百万の神、天の安の河原に神集ひ集ひて…」と登場しています)。 日本の価値観に照らしてみれば「ありたい姿」も多様でいいはずです。日本各地の地域金融機関が、誰かの目を気にした、似通った“借り物”のような「ありたい姿」を掲げ半信半疑で進んでも、上手くいく気がしません。それよりも、 各々の思いが存分に込められた、本当に目指したい“八百万の「ありたい姿」”が掲げられているほうが、強い推進力、そして日本らしさを活かした強い経営につながるように思います。
「ありたい姿」を実現させるために
思いを込めた「ありたい姿」を具体的にすることができたら実現への重要ポイントは3つです。
まずは、「ありたい姿」にむけて行(庫・組) 内のあらゆるものを一貫させることが必要です。 資源配分、人事考課、業績評価、組織文化、経 営目標などは代表的なものになります。これまでは、ともすると他社の目立つ取り組みを「つまみぐい」することで、部分最適かもしれないものの、全社的にみると一貫性を欠くことが起こっていなかったでしょうか。また、大幅な変更をためらったり、誰かの目を気にすることで、 結果として一貫性を欠く中途半端なことになっ てはいないでしょうか。「ありたい姿」がチャ レンジングなものであるほど、全社の取り組みを一気通貫なものにしなければ実現が遠のいてしまいます。
2つめのポイントは、他社との連携を十二分に活用することです。おそらく、本気で考え抜かれた「ありたい姿」を実現するには、自社のリソース(ヒト、モノ、カネ、知識、情報、場所など)では到底、足りないでしょう。異業種との連携しかり、同業である他の地域金融機関との連携もしかりです。同業で潰しあっている場合ではありません。それぞれが「ありたい姿」 を掲げるなかで、根っ子の思い・考え方に共感をもてるもの同士が連携して、相互に補完し進 むことで「ありたい姿」は実現に近づきます。
そして最後は、「ありたい姿」を実現させると、 強く本気で“思い続ける”ことです。ケネディ大統領が「10年以内に人を月に送り、安全に帰還させる」という公約を実現できたのも、大ヒット マンガ「キングダム」の主役の一人でもある秦 の嬴政(のちの始皇帝)が史上初の中華統一を成しえたのも、無謀とも思える目標に対し、強く本気で実現を思い続けたからです。「ありたい姿」の検討時だけでなく、その後も強く本気で思い続けることで、言葉が、行動が、習慣が変わり、無謀な目標も実現へと変わるでしょう。
とにもかくにも、いまの時代環境だからこそ 「ありたい姿」に立ち戻り、強い地域金融機関を取り戻して欲しいと願っています。
以上、髙橋昌裕からのYELLでした。