Vol.12 “生の決算書”の読み解き力を高めよ(2019.5.7)

中小企業経営者の嘆き 

会社経営の一年間の結果は、決算書に数字とし て表れます。それ故、「決算書は経営者の通信 簿である」という捉え方があります。融資を受 けている経営者は、その通信簿たる決算書を、 毎期、金融機関に提出しているわけです。 

ところで、子供から手渡された「通信簿」を、 中を見ることなく仕舞いこむ親などいません。 どんな結果だったのかを見て、良かったところ、 悪かったところについて一言二言でも、会話を します。特別なことではなく、ごく当たり前な 姿です。 

翻って、営業担当者は経営者から決算書を預かったときに、その場で内容を確認し、ポイントを掴み、経営者と会話しているでしょうか。 

「決算書を渡すと、“ありがとうございます”と カバンに仕舞い、コメントの一つもない」という嘆きを、中小企業経営者へのインタビューでよく聞きます。また、地域金融機関の役員さんからも「取引先の社⻑から、“決算書を渡しても 担当者からはアドバイスも何もない”と苦言を受けた」と聞くこともあります。 

決算書は経営者の「通信簿」だとすると、受け取る側の対応として、あってはならないことが起こっています。また、「通信簿」云々の解釈を除いたとしても、多くの中小企業は、金融機関のことを「決算書のプロ」だと思っています。 そのプロが、アドバイス一つでも言ってくれるそぶりすら見せてくれないのは残念に思います。 

行動様式ではなく、そもそもの問題 

それでは、「決算書を預かったら、その場で内容を確認してポイントを掴み、コメントするように」と指示を出したら、解決するでしょうか。 

私の見立ては、NOです。 

どうも各所からの情報を統合すると、若手から 一部中堅の営業担当者(=営業担当者の多くを占める層)は、そもそも“生の決算書”を、まともに読み解けないようです。 

もし経営陣の方で「当行(庫・組)は、そんなことはない」と思う方がいたら、組織として意識的に“生の決算書”を読む力を鍛えてきたか、現場の実態が見えていないかのいずれかでしょう。 

環境要因で“生の決算書”を読めなくなった

“生の決算書”を読み解く力に乏しいからといって、その人たちが怠惰だったわけではありません。そうなった環境要因があります。 

一つは、効率化・機械化の進展です。決算書の内容を分析する自動化ツールのおかげで、大幅な効率化の恩恵を受けました。他方で、昔のように赤鉛筆と定規を使っての分析業務は必要なくなり、“生の決算書”を読まなくなりました。 

二つ目に、預り資産、リレバン、事業性評価、 ビジネスマッチングなど、決算書「以外」を重視するものが主流となったことが挙げられます。 

そして、それらの結果、決算書をもとに経営者にアドバイスすることの必要性を、そもそも認識していない行職員を生んでしまったわけです。 

中小企業の悩みは決算書に表れている

対する中小企業の側を見ると、資金調達に限らず、広く財務面での悩みは、依然として大きなものとして存在しています。 

たとえば、私自身、地域金融機関より「専門家との連携」の文脈で紹介いただき、いくつかの 中小企業のサポートもし、またそうした活動をする人たちとのネットワークを有していますが、 “利益は出てるのに、お金が足りるか不安”という 中小企業経営者が多いことを実感しています。 

この手の悩みは、本来、金融機関であれば、経営者へのヒアリングと決算書を読み解くことで、 解決にむけたアドバイスができるはずです。 

関係性と財務があっての付加価値

事業性評価は、決算書には表れない、会社・事業・経営者の特性や将来展望を見据え、必要な資金サポートにつなげるものです。また、金融検査マニュアルの廃止で決算書に基づく格付の位置付けは、相対的には低下することでしょう。 

しかし、だからといって決算書に表れた結果を軽視していいものでは、決してありません。 

Vol.11で述べたお客様との関係性(親しさ・信 頼・信任)が土台としてあり、その上に決算書等に基づく財務的なサポート・アドバイスがあったうえで、事業性評価やビジネスマッチングなどの付加価値が乗ってくる、という構図であって然るべきです。前の二つが不十分な中での付加価値の追求は、地域金融機関として砂上 の楼閣と言って過言ではないでしょう。 

おススメしているトレーニング方法 

中小企業経営者がアドバイスを期待し、経営者 の悩みがあらわれ、金融機関の本業たる「お金」に関わるものなので、営業担当者には“生の決算書”を読み解く力を高めて欲しいと思います。 

参考に、おススメのトレーニングを紹介します。 

まずは、決算書を預かったその場でポイントを 把握するための「3分間分析」です。“生の決算書”(会社名は隠す)を用い、当該企業から融資申込があった場合に「積極か消極か、その理由は」を3分間で考え、発表するトレーニングです。繰り返すことで短時間でのポイント把握力が身に付きます。 

もう一つは、「経営アドバイス分析」です。こ ちらはじっくり時間をかけていいので、“生の決 算書”を見て「経営者の財務に関する悩み事」 (先の例では、“利益は出てるのに、お金が足りるか不安”)を想起し、悩みを軽減するためのア ドバイスを考えるトレーニングです。ポイント は、「貸せるか貸せないか」という金融機関目線を離れ、経営者の悩みから考えることです。 

“生の決算書”を読み解いて、お客様をサポート。 基本的なことですが、これができるだけでも、 お客様からの信頼は増すよう思います。 

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。