「日銀レポート」最新号の特集
「金融システムレポート別冊シリーズ」(日本 銀行)の最新号(2019年5月)ではデジタライ ゼーションに関する金融機関アンケートの結果 が紹介されていました(以降「日銀レポート」 と表記)。詳しくは日銀レポートを確認いただ くとして、本ニュースレターでは、IT投資効果 測定について掘り下げてみます。
IT関連費用は増大
今後、金融機関においてデジタライゼーション が進むのは間違いありません。それに伴い、IT 関連経費も増加します。日銀レポートによると、 2016年度のIT関連経費との対比で、2020年度 計画は地域銀行・信用金庫ともに1割程度の増加 見通しとなっていました。
もちろん、全社的に利益確保のため経費削減が 求められている最中なので、戦略領域だからと いって闇雲に経費を増やすわけにはいきません。 さらに日銀レポートを見ると、IT・データ活用 のための投資効果を事後評価する枠組みについ て、地域銀行の5割・信用金庫の9割は「仕組 みはない」との回答だったようです(図表1)。
IT投資効果のマネジメントは十分か
ところで、IT投資効果の評価ですが、効果測定 の仕組みがある地域金融機関でも、それが十分 に機能しているかは不安もあります。 複数の地域金融機関で目にした事例をいくつか ご紹介しましょう。
- 事後の効果測定を主管部に指示したところ、 「効果を測るためのデータはとれない」との ことで、効果が分からずじまい
- 「投資効果が見合わなかった」案件に対し、 その後の対応方針が曖昧なままで、改善なく 赤字を垂れ流し
- 限られた予算の中でIT投資の可否を審査して いるが、実態は「声の大きな役員/部⻑」の 案件をとおしてしまっている
- ROIがプラスになるタイミングがたとえ10年 先であっても、「投資効果のある案件」とし て、案件がとおりやすい
- 各担当者は、投資効果よりも「顧客のため」 など定性的理由を過度に打ち出している
IT投資効果のマネジメントは重要性を増す
もちろん、IT投資のすべてにおいて投資効果が プラスになる必要はありません。顧客の利便性 向上などのために、投資効果を度外視してでも対応したいものもあるでしょう。これは理解できます。必要な投資は、機を逃さずすべきです。
ただし、気をつけなければならないのは、投資効果が見合わなくても「これは必要」「あれもやったほうがいい」「それは他行がすでにやっているので当行(庫)も」という案件が積みあがると、全社利益の確保がいっそう難しくなることです。各部の担当者は、基本的に仕事に対して真面目です。そのため、普通にしていると、 こうした「やったほうがいい」案件が、数多く出てきます。さらに、これからの時代は、デジ タルを活用した新たなサービスの登場により、 やりたい案件は増えるでしょう。 IT投資は一案件あたりの金額が大きいものです。だからこそ、従来ながらのITも含め、IT投資効果のマネジメントをしっかりとおこなっていく必要があります。
高度化のコツ
IT投資効果のマネジメントは、最初は簡単な仕組みで十分です。次に示すような、いくつかの 「基準」を設けるだけでも高度化できます。
【 IT投資の事前判断 】
- 「ROIが○年以内にプラスになること」を投資 の原則要件として定める
- 上記原則に当てはまらない案件への投資総額(投資の○%まで)を事前に定める。さらに、 全社的意義のある投資となるよう、経営戦略との「一貫性」のなかで、投資領域を定める
- 金額効果が測れない案件でも、KPIの項目と達成時期・水準を事前に定める(測定不可能な 項目をKPIに据えるのは論外)
- 効果報告を求める時期を、事前に定める
【事後の効果測定】
- 効果報告は、システム部門からではなく、 ユーザー部門の⻑がおこなう
- 効果が計画を下回る案件は、具体的改善策と 改善がなかった場合の処置も決める
デジタルの活用、そして投資の巧拙は、地域金 融機関経営に大きな影響を及ぼします。うまく マネージすることで、戦略実現・利益貢献につながることを期待しています。
以上、髙橋昌裕からのYELLでした。