Vol.18 「内弁慶」を量産しよう(2019.8.9)

外で「弁慶」が増えてきた

家の中では威張りちらすけど、外では気が小さくておとなしい人のことを「内弁慶の外地蔵」 と揶揄します。外でも弁慶であれ、との激励が込められてもいます。 

さて、近時、地域金融機関の若手・中堅の人と接していると、外で弁慶の振る舞いができる人が増えてきたよう感じます。平日に東京で開催のセミナーにも、首都圏以外の地域金融機関からの参加者は珍しくなくなりました。比較的、おとなしい(発言が苦手な)イメージがあったなかで、これはとても喜ばしいことです。 

だけど、内では「地蔵」 

他方で気になるのは、「内弁慶で外でも弁慶」ではなく、組織内ではモノを申さない「内地蔵の外では弁慶」が増えているのではないか、ということです。上記のようなセミナーでは、相応の割合で、有給休暇を取得して自主参加している人がいます。そこまでの思いで参加し、学びたい、刺激をうけたい、という意欲はとても 素晴らしいものですし、全力で応援します。 

ただ、諸手を挙げて100%称賛するか、というと心にひっかかるものがあります。学ぶためのセミナーに、なぜ業務扱いではなく、有給休暇 で参加せざるを得ないのでしょうか。上司にかけあった結果、NOだったのであれば仕方ありま せん。しかし、どうせ申請してもNOに違いない、 と諦めてしまっていたのなら、やや残念です。 

別のケースに話は飛びます。 

昨年、開業&著書「ゴールベース法人取引」出版の特別記念と称して、地域金融機関の若手有志を対象とした“One Coinセミナー”(参加料1 人500円)を、複数の金融機関で実施しました。 有志参加のため開催はほとんど土曜日でしたが、 「休日でも参加したい」という意欲ある若手が 集まってくれました。 

セミナーでは、「こういう組織に変わりたい」 「こう変わらないとお客様に寄り添えない」と 前向きな意見が多く出されたので「それを頭取、 役員、部⻑、支店⻑に言えばいいよ」と私が発言すると、総じて「それは無理」と自信なさげ な顔になってしまったのが印象的でした。休日の自主セミナーに参加するほど意欲ある人たちでも、組織内でモノ申すのは相当ハードルがあるようです。 

さらに言うと、セミナー開催にこぎつけただけいいほうで、実施したいという思いはあるものの、「部⻑に了解をもらえるか分からないから」と、言い出せずに終わってしまった人も、 何名か知っています。 

モノ申せない気持ちは理解できる

こうした、組織内でモノを申せない人たちの気持ちは、痛いほど理解できます。上にモノ申し たり、目立つ言動をしたことで、煙たがられ、 不遇な人事評価・人事異動を受けた先輩の噂を見聞きしてきたのでしょう。何かにチャレンジしたりリスクをとってみたりしたものの、残念ながらうまくいかなかったことをもって、懲罰的な人事異動が出されたのを見てきたのかもし れません。もしかしたら、過去にそんな事実はなく「都市伝説」の可能性もあります。しかし、 「そういうことがあったとしても不思議ではない」という雰囲気が行(庫)内に出来上がってしまっているため、モノを申せないのでしょう。 したがって、モノ申せない彼ら・彼女らを責め ることはできません。 

では、そうした組織の経営トップは、若手・中堅からの提言を受け付けない姿勢をとっているのでしょうか。多くのケースで、まったくそん なことはありません。むしろ逆で、もっと若手・中堅からのアイデア・意見を求めています。 声があがってこないことに、もどかしさを感じてさえいるとも聞きます。

  •  若手中堅 : モノ申したいが、申せない
  • 経営トップ : モノを言ってきて欲しいが声があがってこない 

両当事者の思いは同じなのに、噛み合いません。 

これがすなわち「組織文化」であり、文化だからこそ根深く、簡単に変えられるものではない難しさがあります。 

それでも、難しさに挑んでください。 

強く良い組織になるには、上下左右、自由闊達に意見が飛び交う状態にすることは不可欠です。 そのためには「内弁慶」の量産が必要なのです。 

さて、御行(庫)で「内弁慶」を量産するには、 何が必要でしょうか?組織文化の変革に挑むわけですから、あらゆる手段をとっていかねばなりません。経営トップがメッセージを発し続けることはもちろん、言動の一致(はしごを外さない)、 face to faceのコミュニケーションの増加、モノ 言ってきた人への称賛と人事考課への反映(「失 敗しなかった人」を年次で昇格させるのではなく、 「モノを言いチャレンジした人」を昇格させる。 ニュースレターVol.15「『人事評価』で何を評価 するか」にも通じる話です)などはその一部です。 

そして若手・中堅の皆さんは、思い込みによる 「忖度」をせず、言いたいことは言ってみましょう。その勇気が持てなければ、言うことで起こり得る最大のリスクを考えてみてください。会社員の最大のリスクはクビの宣告です(地域金融機関の場合、モノ申したくらいでクビにはなりませんが)。モノを申したい気概があるくらいなので、 最悪クビになっても働き口はあるでしょう。最大 のリスクを受け入れられると腹が決まれば、怖いものはありません。あとはモノ申すだけです。 

「内弁慶」に溢れ、モノを言い合い変革に立ち向かえる強い組織に。そんなことを願っています。 

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。