Vol.20 「金融行政方針」等を営業現場は読んでいるか(2019.10.18)

「金融行政方針」を誰までが読んでいるか

前回は、金融行政方針の「新しくない」ことか ら、私なりに意図を読み取ってみました。 

ところで、この金融行政方針ですが、行(庫) 内では、誰までが読んでいるのでしょうか。経営陣や企画部門については問題ないとして、その他の本部各部の人は読んでいますか。そして、支店⻑をはじめとする営業現場の人達はどうでしょうか。「それぐらいは読んでいるはず」という期待はあると思いますが、はたしてどうでしょうか。 

営業現場は読んでいない可能性が大きい

企画部門以外の本部各部については、私のなかで推察の材料を持っていないのでよく分かりません。しかし、支店⻑に関しては「ほとんど読 んでいない」というのが、私の当たり付けです。 

というのも、支店⻑向けの講演や研修を、少なからずやってきているなかで、参加者(支店⻑)に「金融行政方針を読みましたか」と質問してみると、多いときですら2割〜3割の人が手をあげるのみだからです。20人の中で1人だけ、というときもありました。そして手をあげ た人の多くは、直近まで本部の企画部門・営業 統括部門にいた人と、偏った傾向にあるのを見 てきました。 

支店⻑が読んでいないので余程のことがなければ営業担当者も読んでいません。「金融排除」 について言及しても、「はじめて知りました」 

という反応が、当たり前になっています。 

営業現場でも、読む意義・学びがある 

こうした状況について、私は残念に思います。 なにも「金融庁が出した文書だから読むべき」 と、金融庁をたてているわけではありません。 営業現場の人にとっても「読む意義・気づき」 があるのに読んでいないことが残念なのです。 この点について、3つにわけ言及してみます。 

 1)自らの業界の正しい理解

マスコミ報道では、地域金融機関についてネガティブなことばかりが採り上げられています。 行(庫)内でも、どちらかと言えば厳しい話の方が多く聞こえてきます。だからこそ、自らの業界の現状や将来について、どのような見方がされているのかは、気になっているはずです。 

そうしたときに、マスコミが恣意的に切り出した二次情報だけを見るのではなく、金融庁が出した一次情報を見て、当局は何を言っているの か、どこに問題意識を持っているのか、正しく 理解しようという姿勢があって欲しいものです。 

大いなる期待があるが故に、厳しいことを言うと、自らの業界が言われていることを真剣に理解する姿勢に乏しい人が、お客様とその業界を理解して事業性評価をしようというのは、無理があるのではないでしょうか。 

2)営業活動をより良くする検討材料

もちろん、金融行政方針等の中身がすべて、営業現場で役立つわけではありません。今回の金融行政方針の目玉である「パッケージ策」も、多くは経営レベルの話です。他方で、3〜4年前からは、企業アンケート・企業ヒアリングが実施されており、ここには、営業活動や、お客 様との関係を、より良くするための考える材料 が詰まっています。 

たとえば、過去には「約3割の企業が、経営上の課題や悩みをメインバンクに全く相談したことがなく、その最大の理由は“あまりいいアドバ イスや情報が期待できないから”」とのアンケー ト結果が掲載されていました。もちろんこれは、 個別行(庫)への評価ではなく、全体平均になるわけですが、業態全体ではこうした評価であ ると認識することで、自支店・自らの営業活動のやり方、問題意識の持ち方、顧客への向き合い方等を変えるキッカケになります。 

また、今回の「金融行政方針」、および同時に発表された「プログレスレポート」では、事業性評価の進展について、次のような分解がされていました。 

①  経営課題等を聞いてくれる
②  ①かつ、分析結果等を伝えてくれる
③ ②2かつ、フィードバック内容に納得感がある 

これの3についてが「事業性評価進展先」と定 義され、3の段階にある企業の86%が「是非、 取引を継続したい」という回答であったこと等 が紹介されていました。この結果をどう解釈す るかはそれぞれですが、「事業性評価」につい ての気付き、そして自支店・自らの担当先で①②③に該当する企業の分布はどうなっているか、

 ①を②に、②を③にするにはどうしたらいいかを 考えるキッカケには十分になるはずです。 

 3)本部施策の意図の理解と適切な対応

営業現場として、本部が打ち出す施策の意図を正しく理解するためにも、金融行政方針等は読んでおくことは必要でしょう。なぜなら、本部が打ち出すことの背景に、金融庁の公表資料があることは少なくないからです。予め金融庁の公表資料を読んでいれば、本部が施策を打ち出した際に、なぜこの施策をするのか問題意識の背景まで含めて理解でき、適切な対応ができます。他方で、読んでいなければ「また本部がなんか言ってきた」と 面倒くさそうに受け取り、施策の上っ面をとらえた活動となってしまうこともあり得るのではないでしょうか。これでは、効果は期待できません。 

以上、3つの観点から、営業現場でも金融庁の公表資料を「読む意義・気づき」があることを述べ てみました。もちろん、日々の業務で忙しいことは理解しています。すべての公表資料を読むべきとは言いませんので、「金融行政方針」「プログレスレポート」の2つだけは、必ず読んで欲しいと思います。公表資料からも貪欲に学び、お客様 との関係性をより強固なもにしてください。 

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。