地域金融機関の重要命題の鍵を握る
お客様との関係強化、若手行職員の育成および 早期離職防止という地域金融機関の重要命題を考えたとき、鍵を握るのは支店⻑です。
業績に対するプレッシャーのかかるなか、支店内の「人の問題」(人数不足・経験不足・リー ダー不在・世代の温度差存在)、「業務の問題」(時間の制約・事務の負担増大)、「営業活動の問題」(スキル低下、育成余力の不足、 種まき活動の不足)と、さまざまな苦労のなかで活動しており、もっとも大変なポジションと いっても過言ではないでしょう。
もちろん、大きな「やり甲斐」もあるはずです。 しかし、若手行職員で「将来、支店⻑にはなり たくない」という人が増えているという話を聞 くにつれ、支店⻑の「大変さ」ばかりが際立っ ている姿が目に浮かびます。
「力が落ちた」?
支店⻑について役員の方と話をしていると、 「以前と比べて、力が落ちた」という声を耳にする機会も少なくありません。
この点について、私はYESともNOとも言いま せんが、支店⻑に求めるものが以前よりも増え たために、期待値とのギャップが広がっている ということはあるでしょう。もう一つ言えるの は、現在の支店⻑層が、決して「手を抜いてき たわけではない」ということです。全体的に力が落ちたと感じているならば、それは「環境」 要因です。一昔前の支店⻑層とは、経験してき たことが違うわけですから、到達点が異なるの は当たり前です。
なにごとも支店⻑次第
「結局のところ、なにごとも支店⻑次第」という声もよく聞きます。これには賛成します。
業績不振店を優良店に代える力(逆もあり)、 活力ある部下を育てる力(逆もあり)、支店の一体感を醸成する力(逆もあり)、お客様の心を強烈につかむ力(逆もあり)など、支店⻑によって大きく変わります。
融資稟議の本部判断においても、「あの支店⻑ があげてくる稟議だから、大丈夫だろう」と、 先入観レベルで支店⻑に色がついているのが 実態ではないでしょうか。
A.T. カーニー時代、ある地域金融機関と一緒に 渉外担当者層の強化プログラムを策定し、数回 にわたって研修を実施したことがあります。
その後、フォローアップしてみると、学びを活 かして成⻑を加速している人達と、いっさい活かせず停滞している人達とに、見事に二分されていました。両者の要因を調べると、浮かび上がったのは支店⻑の対応の違いです。前者は、 研修の内容を把握し、実地のなかで活かす方法をアドバイスしてくれていたようですが、後者は研修内容には無関心で今まで通り短期的な成果中心のコミュケーションばかりだったことがわかりました。「どんなに若手層を鍛えても、 直属の上司である支店⻑次第では、まるで意味をなさなくなる」という重大なことに気付かさ れる出来事でした。
育成強化は必須の事項
地域金融機関の重要命題の鍵を握り、力が落ちたかは別として期待値とのギャップは存在し、 良くも悪くもその人次第、ということであれば、 支店⻑の意図的な育成強化は不可欠です。
ところで、「支店⻑の育成に力をいれている」 という地域金融機関は、はたしてどれだけあるでしょうか。支店⻑への研修は、新任時とリス ク管理面を中心に単発的なものだけ、という地域金融機関も少なくないはずです。
「一国一城の主」という表現を最近では聞かなくなってきましたが、それでも「支店⻑にまでなったからには自主性に任せる」という考えは根強そうです。
しかし、これでは立ち行かない時代になっています。地域金融機関をとりまく環境も変わり、 経験したことのないものを求めるのであれば、 自主性だけに任せず、本部主導で育成プログラ ムを組み、これからの時代の支店経営に必要と なる武器弾薬も与えてあげるべきではないでしょうか。ここを疎かにしては、若手層をいくら鍛えても、効果は期待ほどは望めません。
3つのポイント
それでは最後に、支店⻑を育成強化する際の ポイントを3つ挙げてみます。
- まずは支店⻑の期待役割を明確にする
これからの時代、支店⻑は何を期待する人と定義しますか。目指す姿の明確化が、育成強化の出発 点です。ちなみに、最近の私のお気に入りは、 「部下に成功体験をつませることが支店⻑の期待 役割である」というものです。もちろん、これに 囚われる必要はありません。あくまでも例示です。 - 全員一律のプログラムにしない
支店⻑の現状レベル、強み弱みはそれぞれです。 にもかかわらず、全員同じ研修プログラムにはめ こむのには無理があります。特に、優秀な支店⻑ から「学びが少なく時間の無駄」と不満の声があ がることが想定されます。優秀な支店⻑には、むしろ教える側になってもらうほうがいいでしょう。 - 座学だけでなく実地を盛り込む
基礎を座学で学んでもらうことも必要ですが、そ れだけでは効果は期待薄です。自支店でのテーマ を実際に考え、行させ、実地で鍛えることをプ ログラムの主眼におくべきです。当然、単発では なく、継続的な取組み、フォローが必要です。
お客様も、現場の行職員も、支店⻑次第です。 これからの地域金融機関を考えると、支店⻑には 大きな期待を寄せないわけにはいきません。
以上、髙橋昌裕からのYELLでした。