Vol.23 平成金融の終わりは、チャレンジへの幕開け(2019.12.29)

金融検査マニュアルの廃止

平成が終わり、令和の幕が開けた2019年。 本レターの発行時点で、残すところ2日です。そして、つい先日、12月18日に、金融史に必ず記録される出来事となる、「金融検査マニュア ル」の廃止がおこなわれました。 ニッキンの 年末恒例、読者が選ぶ「金融界10大ニュース」 では7位に甘んじていましたが、私の中では、 文句なしの1位です。

まったくの余談ですが、私が新卒で入社した 生命保険会社での、退職前の最後の大仕事は、 保険版金融検査マニュアルが制定された直後に あった金融庁立ち入り検査の会場窓口担当でし た。検査官に「○○について聞きたいから、担当している部の部⻑を呼んで」と言われ、内線電話で呼び出しをする(気楽な)係です。

合間合間に、検査官同士の会話を聞くとはなし に(本当は、耳に全神経を集中させて)聞いて いると、検査官も金融検査マニュアルに慣れて なく、どうやって検査を進めればいいか試行錯誤していることがひしひしと伝わってきました。

あれから、約20年です。

不自由な時代の終わり

閑話休題。 

「金融検査マニュアル」は、20年にもわたり、 良くも悪くも金融機関の思考・行動を規定して きたことは言うまでもありません。 

リスクの極小化と、リスクへの最大限の備えを求められたが故に、金融機関の創意工夫に多大な制限がかけられました。しかし、それも平成と同じ年に役目を終えたわけです。不自由で、 面白みのない時代は、幕を閉じました。 

人事ローテーションの規定も削除 

12月18日は、もう一つ、大きなことがありま した。「人事ローテーション」に関する、監督指針の規定削除です。 

ご存知のとおり、8月に公表された「利用者を中心とした新時代の金融サービス〜実践と方針 〜(令和元年事務年度)」にて、「地域金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築に向けたパッケージ策」の一つとして打ち出されたものです。先のニッキン読者投票では、候補にノミネートすらされてませんでしたが、これは、私の中で今年2位のインパクトです。 

これまで、お客様と⻑期的な関係を築きたくても、定期的(多くは2〜3年)な人事異動がそれを阻害していました。お客様に「銀行の担当者はコロコロ変わって、その都度、一から説明しないといけない」と不満を言われても、「金 融庁の指導があるので、定期的に異動しないといけないんです」としか答えることが出来ませ んでした。 

規制緩和=チャレンジへの幕開け

2019年12月は、このような大きな2つの規制 緩和(廃止)があった、歴史に残る月です。 

まずは、「不自由」で「面白みのない」時代から、多くの「自由」を得たわけです。そのうえ で「面白い」時代にできるかは、各金融機関の 思考・行動次第でしょう。 

いままで地域金融機関の数多くの人から、「金融庁の規制があるので、やりたいことができない」という言葉を聞いてきました。この言葉に接したときに「体のいい言い訳であって、規制があるから深く考えないで済むことを、本心では心地良く感じてるのでは」と思うことも少な からずありました。 

規制が緩和された人事ローテーションの件をとってみても、「お客様との⻑期的な関係の構築」「一部のお客様との関係悪化時の想定」 「行職員の成⻑とやり甲斐」「上司部下の関係」「慣習」「キャリアとポスト」等、方針 

を出すために考慮すべき要素はいくつもあります。 規制という分かりやすい道がなくなったが故に、 一つ一つ「どうしたいか」「なぜそうするのか」 を深く考え、「自己責任」で行動に移さねばならず、相当に大変です。 しかし、規制緩和とは、そういうものです。 金融庁から「ほら、規制をなくすから、やってみろ」とボールは投げられました。簡単ではない意思決定・行動が続くでしょう。しかし、それこそが失われた20年の次にくる「面白い」時代への挑戦権となります。令和とともに、大変だけど面白い時代へのチャレンジの幕が開きました。ワクワ クしませんか。 

昨年独立するにあたり、自分が作る会社に BRAVEYELLと名前をつけました。「変革に立ち 向かう勇気(BRAVE)を、応援する(YELL)」 という意味を込めています。来る2020年、地域金 融機関では、変革にむけた多くのチャレンジに、 勇気を持って挑まれると思います。そんな機会に、 来年もご一緒できればと思っています。 

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。 

拙著『ゴールベース法人取引』で述べた「お客 様の夢の実現にむけて寄り添う」という、地域金融機関の一丁目一番地の活動を難しくしている要因の一つも、定期的な人事ローテーションの存在です。書籍では、苦肉の策として、人事 異動により担当エリアを離れたとしても(本部の所属になったとしても)応援し続ける企業を決め、その企業については銀行員生活をかけ寄り添い応援し続ける「エール企業制度」の導入を提案してみました。 

しかし、監督指針の規定削除をもって、定期的な人事ローテーションは必須ではなくなり、この制約からも解放されたわけです。また一つ、 強固な縛りつけがなくなりました。