Vol.35 社外取締役の有用性を高める (2021.1.20)

企業統治指針の改訂

コーポレート・ガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂が、今春に迫ってきました。改訂のなかでも気になるのは、独⽴社外取締役の増員についてでしょうか。現指針の2人以上から、取締役全体の3分の1以上への引き上げとなるため、取締役の全体構成から⾒直しをする必要がでてきます。もちろん、地銀だけが大変なわけではなく、一部上場企業の約4割が基準未達とのことなので、産業界あげての大事です。

社外取締役を活かせていない

話を地銀に絞ります。
コーポレート・ガバナンス・コードの改訂について、とやかく言っても仕方ありません。そして、単に数合わせ(3分の1をクリアする)の議論に終わらせるのではなく、これを機に社外取締役の有用性を高める方向に進んで欲しいと思っています。というのも、残念ながら多くの地銀では、社外取締役を活かしきれていないように⾒えているからです。

たとえば、私がコンサルティングをするなかで、社外取締役も交えた全取締役での会議や勉強会に参加することもあります。その際に、一部の社内取締役から「社外取締役の方は、銀⾏のことをよくわかっていないので、変な発言をすると思うけど、気にしないでください」と事前に念をおされることは珍しくありません。私に気をつかってくれての発言でしょうが、常日頃から社外取締役をこのようなスタンスで⾒ていることが⼗分に窺い知れます。実際に、社外取締役が発言された際の、社内取締役の話の聞き方を観察してみると、傾聴の度合いは決して高くありません。形式的に「はい、お話を拝聴しました」と、冷めた様⼦すら感じてしまいます。

また、「社外取締役は、積極的に⾏員との対話をして、銀⾏や当⾏の理解に励んでくれている」と、社外取締役の活動を評価する声も聞きます。 銀⾏への理解を深めるための、外部機関での「社外取締役セミナー」も定番メニューになっているようです。このような動き自体は悪いものではありませんが、銀⾏・当⾏への理解を深めてもらう方向での動きのみでは、⽚⼿落ちです。

社外取締役の有用性を高める観点で考えると、「主」は外部の視点・⾒識を経営判断に活かす動き(=銀⾏内部の意識・対応が大事)であり、社外取締役の内部理解促進の動きは「従」です。この「主」「従」が逆転してはいないでしょうか。

社外取締役の登用目的を明確にする

社外取締役の有用性を高めるには、3つのポイントがあります。

まずは、そもそも「社外取締役の登用目的を明確にする」ことです。

仮に「プライム市場に残るべく外形基準を確保するため」と割り切るのであれば、(褒められるかはともかく)潔くもあります。取締役会でも、「ご意⾒を拝聴しました」と外形を整えておけばいいでしょう。

他方で、「外部の視点・⾒識を経営判断に活かすため」など、真面目に向き合うのであれば、次は「人選」が大事になります。

目的に相応しい人選

地銀の社外取締役の典型像(属性)は、地元の大学教授に、士業の先生、中小企業の経営者。うち1名は⼥性、といったところでしょうか。

これが悪いわけではありません。大事なのは、「目的に相応しい人選」になっているか、です。

仮に、これまでも「外部の視点・⾒識を経営判断に活かす」ことを目的にしていたのであれば、⾏内で議論して固めた内容が、社外取締役からの意⾒をもとに、覆ったことや、明らかな進化を遂げたことはあるでしょうか。そこまでいかずとも、⾏内での検討で不安に包まれていたものが、社外取締役の話を聞くことで勇気を得たことはあるでしょうか。YESなら、目的に相応しい人選ができていたと評価できます。NOならば、現在の社外取締役は目的対比では相応しくなさそうです。

経営判断に必要ながらも、社内取締役では不案内な領域の専門家(たとえばデジタル)を招くなど、人選の視点を変えるべきでしょう。もちろん、地元の人に限定する必要もありません。地元のことは、社内取締役の皆さんが⼗分に分かっているわけですから。

社外取締役に対する意識・対応を改める

最後のポイントは、「社外取締役に対する意識・対応を改める」ことです。

「あの人は銀⾏のことをよく知らないから」と話半分に聞き流すのでは、有用性が高まるはずはありません。逆に、知らない人が言ってることだから本質を突いてるはず、と素直に受け入れ、貪欲に学ぶ姿勢が求められます。精神論になってしまいますが、大事なことです。


前半にも書いたように、コーポレート・ガバナンス・コード改訂を数合わせで終わらせて欲しくはありません。これを機に社外取締役の有用性を高め、いっそうの経営⼒向上につなげてください。

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。