Vol.36 「失敗しない」をぶっ壊せ (2021.1.28)

すべては「人」次第

地域⾦融機関に変⾰を期待する声がでて久しいですが、詰まるところは「人」次第、「人材」の強さ次第でしょう。このテーマは、今後、いくつかの切り⼝で書いていこうと思っていますが、今回は「失敗しない」を採り上げます。

「失敗しない」で来たけれど・・・

地域⾦融機関の⾏職員のほとんどは、「失敗しない」ことを是とした価値観の中で育ってきました。その結果、今がHAPPYならば良いのですが、どうもそうではなさそうです。

だとしたら、「失敗しない」という価値観から⾒直しをすべきではないでしょうか。

「失敗」と一括りで扱いすぎ

地域⾦融機関における「失敗」という⾔葉は、「リスク」という⾔葉の扱われ⽅と似た臭いを感じます。リスクを嫌うのは構わないのですが、「発⽣頻度」と「被害の⼤きさ」がまるで異なるものまで同じ「リスク」という⾔葉で扱ってしまうが故に、採るべきリスクをも忌避することが起こっています。

失敗についても同様に、事務ミス・事故に相当するものから、「新たなキャンペーンが、お客様に響かなかった」という類のものまで、「失敗」と同じ⾔葉で扱われてしまいます。これでは、「失敗しない」価値観のもとで、前向きな変化につながる動きが期待できるはずはありません。

「失敗しない」同士だけど⼤きく違う

架空の世界の話となり恐縮ですが、超A級国際的スナイパー「ゴルゴ13」ことデューク東郷は、「失敗しない」ことで依頼者の期待に応え、高い評価と多額の報酬を得ています。ドラマ「ドクターX」で、米倉涼子が演じた主人公は「私、失敗しないので」が決め台詞で、難手術を次々と成功させ患者を救っていました。

同じ「失敗しない」でも、銀⾏型とはワクワクの度合いがまったく違います。現実か架空か以上に、目指すものが「できて当たり前」か「できたら凄い」かの違いでしょう。チャレンジの要素があるか、とも⾔えます。「失敗しない」ために、できて当たり前のことだけに取り組むならば、やはり変⾰は起こりようがありません。

「失敗」の定義を⾒直そう

そもそも「失敗」とはなんでしょうか︖

銀⾏型では「想定通りにいかなかったこと」と定義されそうです。故に、「失敗しない」価値観のもと、「想定通りにいきそうなこと」にばかり取り組んでしまいます。殻の中だけの動きです。

殻を破り変⾰の芽を⾒つけたければ、「学びがなかったこと」を失敗と捉えてはどうでしょうか。

「発明王」と称されたトーマス・エジソンは、失敗に関しての名⾔をいくつも残しています。そのなかから、3つ共有します。

・失敗したわけではない。
 それを誤りだと⾔ってはいけない。
 勉強したのだと⾔いたまえ。

・私は失敗したことがない。
 ただ、1万通りの、うまく⾏かない⽅法を⾒つけただけだ。

・成功できる人は、「思い通りに⾏かない事が起きるのはあたりまえ」という前提を持って挑戦している。

私達が「失敗しない」を⾒つめ直す際の⽰唆に溢れています。発明王にはなれなくても、エジソンに学び、活かすことはできそうです。

チャレンジをしないことが「×」

ある頭取が「若手に“失敗してもいいから、チャレンジしよう”と⾔い続けてるが、チャレンジしてこない」と嘆いていました。原因は、おそらく二つです。

一つは、頭取が目にする前に、中間層が握りつぶすか、角のとれた平凡なものに変えてしまっているから。もう一つは、「そうは⾔うけど、失敗したら人事考課で×がつくはず」と若手が信じていないからです。後者を、深掘りします。

価値観を変えるレベルの変化を起こすには、掛け声だけでなく、人事考課の⾒直しも必須です。

一定の役職までは、(人事考課で×がつかない限り)年次横並びで昇進するのが通例なら、×がつく恐れのある⾏動をとらないのは、至極、正常な選択です。「チャレンジした人は、年次を⾶び越えた登用をする」ことでチャレンジを促す対応策もありますが、該当するのは、抜擢登用があろうとなかろうとチャレンジする人でしょう。

「人は、得をするより、損をしたくない気持ちの⽅が強い」という、ノーベル経済学賞を受賞したプロスペクト理論があります。これになぞらえると、「先輩・同期を差し置いて昇進できるより、自分だけ昇進が遅れたくはない」という気持ちが勝るのは、人の自然な感情のようです。

結果として、「失敗しない」という価値観が変わるには至りません。殻を破るには、「チャレンジをしないことが×である」と新たな価値観を作りあげ、それを人事考課にも反映できるかが鍵になりそうです。

チャレンジは、うまくいかなくて当たり前

チャレンジのためには、目標設定も⼤事です。

人事考課で「チャレンジ目標」を設定しているケースはありますが、多くは殻の中の目標(従来目線で「失敗しない」もの)に留まっています。これでは、変⾰に届くはずはありません。

「チャレンジ」と⾔うからには、うまくいかなくて当たり前、うまくいったらボーナスを2倍も3倍も払っていいくらいのものが相応しいでしょう。もちろん、うまくいかなくても、挑む過程で学びを得ていたなら「失敗」ではありません。そして、経験を通じ、人も組織も強くなっているはずです。




これまでの「失敗しない」という価値観のために、やれてないことはたくさん残されています。ぜひ殻を破って、前向きな変化を進めてください。

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。