営業現場の価値提供力は上がったか
多くの地域金融機関で「本業支援」「提案型活動」「ソリューション」「コンサルティング」 といったことを、以前から(過去の中計から) 掲げ、お客様の成⻑や課題解決を支援する活動に取り組んでいます。
一方で、「まだ成果や実績が限定的」「人材育成が難しい」という声も多く聞きます。もしも 伸び悩みを感じ、このまま続けても望む水準に 達するか不安ならば、Vol.2で取り上げた「事業 性評価シート」と同様に、やり方を見直すタイ ミングかもしれません。
「何でも相談にのれます」のワナ
ところで、上述したような「価値提供活動」として、営業担当者に何を求めているでしょうか。
「お客様の成⻑や課題解決のために現状を分析し、お客様にあった最適なソリューションを、 当行(庫・組)の総合力を活かして幅広い支援 メニューのなかから選んで提案するように」
正しいのですが、求めていることは相当レベル が高いため、一般的な営業担当者にはハードル が高すぎます。
また、お客様から見ても「どのような悩みでも相談にのれます」「さまざまなサポートが可能です」という訴求は、“まったく”心に残りません。
提供者の立場からすると、「何でもできる」と 言いたくなる気持ちは、よくわかります。しか し、たとえば皆さんが知人のビジネスをサポートしてあげたくて、誰か紹介できる人を考えるために「何ができるの?」と尋ねたときに、「何でもできます」という回答と、「〇〇ができます」という回答を受けるのとでは、どちら が紹介しやすいかは自明でしょう。
結果として、営業担当者は「価値提供活動」に二の足を踏み、お客様も相談・照会をしてこないため、この手のスキルアップにおいて重要な経験値を高めることもできません。
「価値提供活動」の実績が思うように伸びていない地域金融機関の、一つの典型像です。
“ニーズ X 勝てる領域” での一本足打法
こうしたケースでおススメするのが、「一本足 打法」です。幅広いサポートメニューがあった としても、「当行(庫・組)は、このサポート には絶対の自信がある」という領域を一つ決め て、それを全面に打ち出すのです。
もちろん、その領域に関しては、本部支援部署 も営業当者も研修等を繰り返し、本当に価値 提供ができるよう徹底的に鍛えます。
「一本足」の領域を決める際の観点は2つです。
まずは、当たり前ですが、中小企業経営者の ニーズがあることです。「多くの」経営者が抱 えている困りごとや願望は、探せば(探さなく ても、ですかね)いくつも出てきます。
そしてもう一つは、自行(庫・組)が確実に価 値を発揮できる領域、言い換えれば「勝てる」 領域から選ぶことです。
たとえばビジネスマッチングは、多くの経営者 にニーズがあり、マッチングに成功すればとて も喜ばれます。しかし、マッチングの成功確率 は高くはありません。野球で言うと満塁ホーム ランのようなものです。それ故「一本足打法」 として全面に打ち出す領域には不向きです(も ちろん活するなという意味ではありません)。 なお余談ですが「一本足打法」ということで王 貞治さんの記録を調べたところ、生涯9,250打数 のうち、満塁ホームランは15本でした。
領域は「お金」に関することが有力候補
“ニーズ x 勝てる領域” で考えると、選びやすい のは、企業の「お金」に関することでしょうか。 もちろん、ノウハウを有していて営業当者で あっても「工場の生産性改善」「店舗の効率 アップ」などで勝てるというのであれば、その 領域でも大丈夫です。ただ、多くの地域金融機 関では「お金」関係が馴染みやすいでしょう。
私の知っている地域金融機関の“優秀な”営業 当者は、次のような「お金」に関する価値提供 を行っています。「一本足」を決める参考材料 にもなり得るので、いくつかご紹介します。
- “日次”の資金繰りの見える化
- 主要商品の限界利益の見える化と、利益率
- 「利益あれども現金たらず」な経営者への 財務改善アドバイス
「覚悟」がレベルアップの核になる
「一本足」を何にするか決める際は、「うちの職員にできるだろうか?」という懸念は横に置き、“ニーズ x 勝てる領域”で考えてみてください。決めることが価値提供・人材育成の「覚悟」へとつながり、「覚悟」こそがレベルアップの核になります。
決めた「一本足」を全面に打ち出すことで、お客様に想起されやすくなり、相談の増加、経験の蓄積、そして「〇〇といえば△△銀行(信金・信組)だよね」という評判(=ブランド) となり「価値提供活動」の好循環が生まれます。 また、一つのことで経営者とじっくり向き合えれば、他のテーマに関する相談も自然とされるようになってくるでしょう。
この経験が、最近イキイキさを失っているように見えてならない営業担当者のやり甲斐回復にもつながっていくはずです。
もちろん、「一本足打法」とてお客様の現状把握・理解をしたうえで行う必要があるのは言うまでもありません。くれぐれも「一本足打法」 の絨毯爆撃となりませんように。
強み(一本足)の異なる金融機関が併存する地域は、お客様にもハッピーなように思います。 「何でもできます」から「一本足打法」による “具体的な価値提供”で地域のお客様をさらに強く。
以上、髙橋昌裕からのYELLでした。