Vol.16 「理念」「⻑期ビジョン」がやはり大事(2019.7.28)

経営戦略・経営計画の原理原則

 

全国地方銀行協会様主催「経営企画研究講座」の講師を、今年もさせていただいてます(*)。 はっきりと記憶していませんが、もう10年くらい担当しているでしょうか。前半(7月)・後 半(9月)をあわせて計2週間、各行の若手〜 中堅の企画担当者を対象に、企画担当者の基礎スキルから、経営計画の策定手法、架空銀行を 想定した⻑期ビジョン・戦略・主要サービスの策定演習、そして実行力の向上等について、学んでもらっています。 

先日終えた前半では、経営戦略・経営計画は 「理念」「⻑期ビジョン(ありたい姿・なりたい姿)」がなにより大事、というメッセージを繰り返し発しました。本ニュースレターVol.10 (“八百万(やおよろず)の「ありたい姿」”)の 内容とも被りますが、原理原則とも言える大事なものなので、改めてポイントを整理します。 

「理念」に立ち戻ることが求められている

戦略のスタート点は上に書いた「理念」であり、「⻑期ビジョン」です。地域金融機関の場合、ここが曖昧であったとしても、足元の業績を伸ばすことが地域企業の渇望する資金の提供につながっていたため、特に重視する必要がない時代が⻑く続いていました。金融検査マニュアルも、何をやってはいけないのか・何をどうすればいいのか、といった視点で縛りをきかせていたため、なおさら「理念」等に立ち戻る必要はありませんでした。 

しかし、時代は変わりました。金融検査マニュアルも、役目を終え廃止になります。 

地域金融機関も改めて原点に立ち戻り、自分たちはなぜ地域に存在しているのか、そのなかでどのような提供価値を発揮したいのか、どんな存在でありたいのか、から見つめなおし、その具体化を経営戦略・経営計画で考えられているかが問われています。 

表現は短くても⻑くてもいい

「理念」「⻑期ビジョン」は、短くシンプルな言葉で表現されていても、⻑い文章で表現されていても、どちらでも構いません。何を大事にするのか、どうありたいのか、どうなりたいのかが明確で、経営戦略・経営計画の起点として機能するものであれば形式は自由です。 

たとえば、amazonの理念は「地球上で最もお 客様を大切にする企業」とシンプルです。他方、 拙著『ゴールベース法人取引』で採り上げた愛知県の中小企業である河合電器製作所(厚労省主催「第1回働きやすく生産性の高い企業・職 場表彰」で最優秀賞を受賞)は、「優しさと温もりと共に“新しい熱”を創造します」というメッ セージから始まる6項目の経営理念のほか、ビジョン・価値観(バリュー)が掲げられており、 すべてを読むと、同社のありたい姿がしっかりと伝わるものになっています(上記拙著P.64~に掲載しています。興味あればご覧ください)。 

⻑期ビジョンは、「見える」もの 

ここまで「理念」「⻑期ビジョン」と一括りで表現してきましたが、両者の位置づけが違うことも、講座では伝えました。 

前者は本質的かつ普遍性をもつもので変更されることは少ないのに対し、後者は「理念」のも とで環境変化も踏まえながら一定期間内(10年とか)に、こうありたい・こうなりたいと思い描く姿です。 

そして何より大事なのは「ビジョン」には“視力”“視覚”という訳があるように、思い描く姿が 「見える」ようになっていることです。visible でなければいけません。地域金融機関の公表資料を見る限り、残念ながら「⻑期ビジョン」が 「理念」と同程度のレベル感にとどまり、「よく見えない」ものも少なからずあります。

⻑期ビジョンの実現可否は測れるように

経営戦略・経営計画では、「理念」に基づいて 定義した「⻑期ビジョン」の実現を目指します。 そこで次に求められるのは、「⻑期ビジョン」 の実現可否を測定可能なものにすることです。 なぜなら、実現可否が測れない目標は、得てし て推進力・実行力が弱まるからです。 

「⻑期ビジョン」そのものが、実現したか否か判定できる内容ならば、この段階はクリアです。

ただ多くのケースではそうはいかないでしょう。たとえば”地域の中小企業に信頼され、最初に選ばれる金融機関になる”という「長期ビジョン」はそのままでは実現可否を測れません。 故に、測定可能な代替指標を予め決めておく 

(○○がこの水準を超えたら「⻑期ビジョン」 は実現と判断)か、アンケート等をおこなって 実現可否や達成度を測れるようにすることが求められます。 

理念と整合・一貫させる 

「理念」に基づく「⻑期ビジョン」が明確になったら、あとは戦略・施策・行動を整合させ、 一貫させます。「理念」や「⻑期ビジョン」のことを“北極星”にたとえる経営者がいますが、言い得て妙です。 

ここが中途半端だと、組織の力を活かすことは できませんし、「当行(庫)は言ってることと、 やってることが違う」と現場や若手中堅の不平不満が募ります。これは大きな経営リスクとな ります。 

経営戦略・経営計画の原理原則は、シンプルで す。とりまく環境が一昔前と変わった今だからこそ、改めて「理念」を起点とする経営戦略・ 経営計画で、地域金融機関が強く進んで欲しい と願っています。 

以上、髙橋昌裕からのYELLでした。 

(*)同講座は、BRAVEYELLとしてではなく、A.T. カーニー株式会社の アソシエイテッドコンサルタントとして受け持っています