Vol.56 ER (Employee Relations) for ER (Employee Retention) (2022.12.29)

多くの「変化」が起きている

近時の地⽅銀⾏は、以前よりも多くの「変化」が起きているように⾒えます。新組織の⽴上げや組織改編、特徴的な⼈事、戦略レベルの取捨選択、新たな商品・サービスの導入、前例のない施策の実施etc…。役職員の⽅から直接「変化」を教えてもらうこともあれば、間接的に業界紙誌の記事を⾒て「変化」を知ることもありますが、いずれにしても「変化」の数は増えていそうです。

結果として、地域特性や県内順位、こだわりなどによって、銀⾏ごとの特徴(らしさ)がでてきたのは望ましい動きと言えるでしょう。

“先⾏きPositive”と捉える⼈は増えてない

ところで、Vol.49『先⾏きPositiveと捉える⼈を増やしたい』では、組織内で前向き・具体的な「変化の数」が多いほど、業界や自⾏について“先⾏きPositive”と思う⼈が増える、と私説を書きました。これに照らすと、“先⾏きPositive”と捉える⼈がもっと増えていて然るべきなのですが、まだそうなっていません。

原因は、起きている「変化」を、⾏員(特に、営業店の若⼿)が“意味あるもの”“明るいもの”と認識していない点にありそうです。「変化」が起きていないならまだしも、起きているにもかかわらず、それが心境変化に良い影響を与え得るメッセージとなっていないのは、勿体ない限りです。

「変化」の事実・意味を理解していない

さらに原因を掘り下げます。

「変化」を“意味あるもの”“明るいもの”と⾏員が認識していないのは大きく2つの理由があります。

1つは、「変化」自体を知らないからです。

自身の処遇や業務に直接関係のないことを気に留めないのは、よくある話です。私が業界紙誌の記事で知って(=外部にも公表されている)、”これは⾯⽩いな”と思った当該⾏の「変化」について、⾏員との会話で話題にすると「そういうことがあったのですか」と、初耳な反応をされることは少なくありません。特に、営業店⾏員の場合、その傾向は顕著です。

2つめは、起きた「変化」自体は知っているものの、その意味合いを理解していないからです。

たとえば、自⾏が持株会社を設⽴したならば、当然に知っています。しかし、なぜ持株会社化をしたのか、その選択が意味するところや、将来に広がった可能性についてまでは分かっていません。そのため、「変化」が心躍るものとはならず、単なる事実としての把握にとどまっています。

これらのことから、せっかくの「変化」も、”先⾏きPositive“と思える材料とはなっていません。Vol.49 に書いたとおり、“先⾏きNegative”と思う⼈が多ければ、組織に活⼒は生まれず、その重い空気を感じて若⼿は「ここに居続けていいのだろうか」と不安を覚えます。これが早期離職の原因にもなっていきます。

「変化」の伝え⽅が不⼗分

本部からすると、事実だけでなく「Why(なぜこれをするのか)」や「So What(これがどんな意味をもつのか)」も含めて発信している、と言いたいかと思います。その通り、通達には、WhyもSo Whatもしっかり書いてあるでしょう。

しかし、現状では質(やり⽅)・量(発信数)ともに不⼗分という認識にたつべきです。

ER for ER

地⽅銀⾏は、投資家対応でIR(Investor Relations)の機能を持っています。類似のものとして、前述の目線での⾏員とのコミュニケーションに責任を持つER(Employee Relations)の機能を明⽰的に設け、担当者を置くぐらい⼒を注いではどうでしょうか。こうした、意図をもった丁寧で戦略的な⾏員へのコミュニケーションの積み重ねが、銀⾏で起こしている「変化」についての正しい理解、“先⾏きPositive”と思える感情の醸成、そして⾏員の定着(ER: Employee Retention)に繋がります。

ER(Employee Relations)for ER(Employee Retention)です。

なお、両ERともに”⼈事部門の機能”とする解説もありますが、私は”経営・企画部門の機能”とする⽅が良いと考えます(ただし、機能が発揮されることが大事なので、どの部門に付与するかは大きな問題ではありません)。

インタビュー形式の活⽤

Employee Relationsの質・量について、少し考えてみましょう。現状の発信⽅法では届いていない・伝わっていないわけですから、+αの打ち⼿が必要です。

本部から遠い場所にいる営業店の⾏員は、どのような発信(媒体・形式・内容)にはきちんと目を通しているかを把握し、Employee Relationsの⼿段として活⽤する⼿はあります。年次別や業務別の研修があるたびに、「変化」について伝える機会を設けても良いでしょう。

そのほか、オススメするのは、インタビュー形式のものです。動画でも、紙媒体の社内報でも構いません。“毎月”定期的に、先月あった当⾏の「変化」と、それにまつわるWhy・So Whatを、インタビュー形式で浮かび上がらせ、Employee Relationsの材料として使うのです。ポイントは、インタビュアーの選定です。興味を惹くためにも、「当たり前」的ではない⼈を選びましょう。Why・So Whatをうまく引き出すことのできる外部の⼈材(伝えるべきメッセージを明確にする⼒がある⼈)、もしくは営業店の若⼿⾏員(同世代の⾏員が興味をもって⾒てくれることに期待)にやってもらうと目的達成に繋がりやすそうです。

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ER for ERによって、「変化」を、事実として知るだけでなく、意味合いまでを含めて理解を促し、多くの⾏員が“先⾏きPositive”と思ってもらえる状態になることを期待しています。

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以上、髙橋昌裕からのYELLでした。