Vol.59 「レジ」が便利に!!(2023.3.22)

〇〇〇対応レジ

あるスーパーで、こんな⽴看板を目にしました。

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「レジ」が便利に︕︕
『〇〇〇対応レジ』を導入いたしました♪
ぜひご利⽤くださいませー♡
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別の看板には「お客さまの声を反映いたしました」というメッセージも付いていました。さて、〇〇〇には何が入ると思いますか。

キャッシュレス決済︖ △□PAY︖ セルフ︖

違います。
正解は「従業員」です。そう、店員さんがピッとしてくれる、私たちが慣れ親しんできた、あのレジです。1年ほど前にオープンしたこのスーパーは、完全セルフ対応レジをウリにしていました。イマドキ感に溢れています。しかし、”使いづらい” ”不便だ”というお客さまの声が多かったのでしょう。従業員が対応するレジを導入することを決め、「レジが便利になる」とまで⾔い切っています。これ、セルフレジは顧客にとっては不便である、と認めているわけです。

顧客自⾝による手続き

近時、手続きの主体が従業員から顧客に移るケースが増えています。しかし、顧客から⾒て便利になったのでしょうか。

たとえば、ホテルにチェックインする際、フロントでの手続きを終えたあとフロントの横にある端末の前に移動して、支払&カードキーの有効化をする必要のあるホテルが増えました。顧客からすれば、支払まで含めて、フロントでの一連の対応の中で済ませてくれるほうが、遥かに便利です。

チェックイン手続きのすべてを顧客側でおこなうホテルも増えています。慣れていないので使いづらいタッチパネルをピッピッピッと押しながら、自ら手続きすることを面倒と思う人は少なくないでしょう。

先日宿泊したホテルは、この形式でした。私は、キーボード入⼒は「ローマ字入⼒」を使っているのですが、タッチパネルに表示される「かな入⼒」を「ローマ字入⼒」に切り替える⽅法が分かりませんでした(「かな入⼒」しかできない仕様だったのかもしれません)。やむなく「かな入⼒」で進めますが、あいうえをの配列は、メーカーによって右から始まるもの(50音表に準拠)と左から始まるものが混在しています。そのため、自分の名前ですら、考えながらの入⼒で時間がかかってしまいました。こういう経験、私だけではないと思います。

機械化により顧客離反も

銀⾏も、Vol.45「メガバンク体験から考える地銀店頭窓口の⽅向性」でも書いたように、顧客自⾝による端末入⼒・操作が拡がってきています。

顧客として、いくつかの銀⾏で体験しましたが、個人でする手続きくらいであれば、慣れない端末に入⼒するよりも、帳票に記入して窓口に提出し、あとは呼ばれるまで待つ⽅がラクです。同じ感覚の人はいるようで、ある銀⾏では、顧客操作端末を導入した店舗で来店客が減り、未導入の僚店で来店客が増える現象があったと聞きます。

さらに⾔えば、便利か否かは、家や職場で完結できるかが⼤きな要素で、店頭でなければ手続きができない時点で、不便だなと思います。不便さを感じて出向いた店頭で、面倒臭さや事務的な対応に終始といった体験があると、⼼は離れてしまいます。

ITの活⽤領域拡⼤検討のポイント

銀⾏として、ITの活⽤領域拡⼤は不可避でしょう。検討を進める際のポイントを3つ記します。

1)IT化する領域を熟考する
⾏員がおこなっている事務のIT化は、どんどんと進めると良いでしょう。他⽅、顧客接点に関わる領域は、よく考えたうえで判断してください。脱・帳票&顧客の端末操作は、流⾏りではありますが、地域特性・顧客特性・対応手段によっては、顧客利便性を下げ、顧客が遠ざかる原因にもなり得ます。顧客接点が重要な経営資源である地⽅銀⾏は特に、メガバンクに倣った”なんでもかんでもIT化”には気をつけてください。

2)顧客に選択肢を用意する
顧客が端末入⼒・操作を不便に感じる原因が「不慣れ」(使いこなせれば便利)ならば、しばらくの間、丁寧なサポートをつけ操作に慣れてもらえばいいでしょう。他⽅、体制上の都合等で、「不便な対応を強いている」(慣れても面倒)のなら、できれば複数の対応から顧客が選べる状態が望ましいです。スーパーでのセルフレジと従業員対応レジの併存は、この形です。

3)コミュニケーション強化をセットで考える
Vol.45で述べたように、顧客接点の機械化を進める場合、顧客とのコミュニケーションをいかに強化するかは、地⽅銀⾏にとって⼤事な論点です。これらは、セットで(同時に)考える必要があります。先に効率化の果実を享受したうえで、次の段階としてコミュニケーション強化策を考えよう、という時間軸で進めると、すでに顧客が遠ざかってしまった後の可能性があり、コミュニケーション強化は極めて難しくなります。
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新たなもの・新たな⽅式を採り入れることは、もちろん⼤事です。ただその際に、時流にのることを優先するがあまり、⼤事な資産(今回の件では、顧客接点)を傷つける可能性がないかは、よく考えてほしい、というのが今回の趣旨です。

伝統と革新、両者を兼ね備えた、顧客に愛される⾦融機関が増えていくことを期待しています。
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以上、髙橋昌裕からのYELLでした。