Vol.58 ”エール企業”制度(2023.3.16)

多くの反応

昨年末に発⾏したニュースレターVol.55「支店⻑の『高校教師型』化(案)」は、近時のなかで最も多くの反応をいただきました。それだけ、今の支店⻑にはギリギリのなかで頑張ってもらっていたり、今後の支店のあり方について考えている、ということなのでしょう。

「高校教師型」の特徴

「高校教師型」では、自店の業績・運営等に関する責任は支店⻑が持ち続けます。他方で、お客様対応の進め方や提案にむけた作戦の検討等の何割かは、本部役職者や他店の支店⻑など「適切な」他者に委ねることが特徴です。


お客様との物理的な距離(支店の⽴地)よりも、⼼の距離(関係性)を重視した対応への切り替えとも言えるでしょう。

なんでもかんでも支店⻑任せとはせず、組織全体の中で「適切な」⼈がサポートし、組織全体で向き合い取り組むことで、お客様対応を含めた支店業務を、進化・深化させていく考えです。

“エール企業”制度とは

「高校教師型」の背景には、拙著『ゴールベース法⼈取引』で提唱した、“エール企業”制度の思想があります。5年前に書いた本ですが、環境が変わってもなお、採り入れ検討の意義はあると思うので、本号で紹介します。

“エール企業”制度は、⾦融機関の⾏職員として「この企業・社⻑を応援し続けたい」という先を自⾝の”エール企業”として登録し、⻑期にわたって責任感をもって伴⾛し続ける制度です。

場所ではなく、⼈に紐づいているので、他店や本部に異動となっても、エリアの後任担当者と共に、共同担当者として公式に受け持ち続けます。

お客様が連絡したい用件があった際は、“エール企業”として登録した担当者でも、エリアの後任担当者でも、どちらに連絡をしてもよいことにします。昔と違い携帯・メールの活用が当たり前になった今、実際のところ、お客様はエリアの後任担当者でなく、前任者等に相談の連絡をすることは珍しくありません。⾏職員の「この企業・社⻑を応援し続けたい」という思いと、お客様の「この⼈に相談したい」という気持ちはマッチするでしょうから、結果として、現状を公式な対応として追認し、お客様にも推奨することになります。

もちろん、自⾝が選んだ応援し続けたい先なので、先方から連絡があったときにだけ対応をするのでは不⼗分です。せめて月に1日は、“エール企業”への能動的な対応に時間を割くことを推奨します。

⾏職員が「応援し続けたい」と⼼から思う企業に向き合う時間は、地域⾦融機関として価値ある時間です。月に1日は、活動時間換算で約5%です。これくらいなら、時間を割けるでしょう。仮に、この時間の捻出すら難しいのであれば、本当の「働き方改革」に取り組む必要があります。

“エール企業”制度のメリット

“エール企業”制度は、お客様からすると、自社のことを応援してくれる⾏職員が伴⾛し続けてくれる安⼼感につながります。お客様の深い理解に基づいた対応・提案が増えるため、結果として、お客様がより良くなる可能性も高まるでしょう。

もちろん、⾦融機関のメリットも多くあります。

1つは、⽂字通りの「伴⾛型支援」をおこなえることです。
⼈事ローテーションに関する監督指針の規定が削除され、定期的(多くは2〜3年)な⼈事異動は、必須ではなくなりました。他方で、⼈材育成の観点から2〜3年での⼈事異動を是とする考えも根強く、結果として1⼈の担当者がお客様に⻑期的に寄り添うことは困難です。担当者を引き継ぎ続けての組織的な伴⾛も、情報の蓄積が進んできたとはいえ限界があります。“エール企業”制度は、これら障害を打破し得ます。

2つめは、⾏職員のやり甲斐に繋がることです。
現状の⼈事異動の間隔下では、短期目線の活動に終始してしまうのは、やむを得ません。しかし、この制度を採り入れることで、応援したいお客様に⻑期に寄り添い、社⻑が目指す姿の実現に向け応援し続けられるのは、地域⾦融機関に入社した⼈であれば、誰もがやり甲斐を感じるはずです。

3つめは、お客様視点の浸透です。
本部に異動になっても“エール企業”の担当であり続けるため、お客様の生の声、お客様のニーズ、お客様の悩みに触れ続けます。すると、本部の各部署が打ち出す施策は、現場感があり、お客様の視点も踏まえた、より良いものが多くなるでしょう。

両輪の関係

“エール企業”を登録するのは、営業担当者に限りません。支店⻑も、本部に異動になっている役職員も、思いがある先については自⾝の“エール企業”として登録すると良いでしょう。

また、この制度を続けていくと、担当者の昇進により、“エール企業”の担当が支店⻑や本部役職者になるケースも増えてきます。

ここで、話は「高校教師型」と結びつきます。
エリアを受け持つ支店⻑よりも、その企業について“エール企業”の担当として思いを持つ他店の支店⻑や本部役職者の方が、お客様やエリアの担当者にとってはるかに「適切な」相談相⼿と言えます。この状態が作れると、エリアの支店⻑は、当該のお客様に関する対応を自⾝の業務から切り離し、安⼼して委ねることができるでしょう。

このように、「高校教師型」と“エール企業”制度は、両輪の関係になっています。

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「高校教師型」・“エール企業”制度は、支店(⻑)の役割、⾏職員の育成・モチベーションなど、重要テーマに関連します。新たな試みも交え、より良い姿を作っていくことを期待しています。

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以上、高橋昌裕からのYELLでした。