すべては「人」次第
前号Vol.36では、地域⾦融機関の変⾰の成否は、「人」次第、「人材」の強さ次第だと書きました。
注目のDX(デジタルトランスフォーメーション)にしても、たまたま今の旬なテーマが「デジタルを使った変⾰」というだけであって、3年後5年後にはまったく別のテーマへの対応を迫られていることでしょう。大事なのは「どんなテーマであっても、その時々の必要性にあわせて主体的に推進できる人」であり、デジタルなど個別テーマの専門家を育成することではありません。
「出向」と「中途採用」を積極活用
「人材育成が大事」と口で言うのは簡単ですが、永遠のテーマと言えるほど難しくもあります。
地道なOJTとOff-JT、そして経営意図と整合した人事考課は、どれも不可⽋です。
その理解はしたうえで、今回は強い「人」(+その集合体としての「組織」)を作るために積極活用したい出向と中途採用の2つを採り上げます。
40歳までに全員を出向させる
プロジェクト等で地域⾦融機関の⽅と接していて、「この人、おもしろい視点をもってるな」「珍しく、⼒強くものを言える人だ」と感じることがあります。確認してみると、出向などで⾃⾏庫「以外」の勤務経験を持っている人であるケースが多いです。強い人を育てるために、出向は強⼒な武器になることでしょう。
2014年に出版した拙著『ザ・地銀』でも、人材マネジメントの項目で以下の提言をしました。
- 将来有望な若⼿や中堅職員は、積極的に⾏外に派遣すべき
- できることなら、一部の人に限定せずに、40歳になるまでに全⾏員が一度は外部で働く機会も作って欲しい
基本的な考えは、いまも変わりません。むしろ、よりインパクトの大きい、後者(=全員出向)を推す思いの⽅が強くなっています。さらに言うと、出向先は付き合いの深いメガバンクなどの⾦融機関ではなく、⾦融とは違った空気の会社が望ましいです。地元の取引先企業でも構いません。
異業種で働くことで視座が変わり、視点が増え、視野が広がるとともに、「悪い意味での」銀⾏員らしさを解き放つ良い機会となり、出向を終えて戻ってきた後には、組織を強くする・組織を変える原動⼒になるでしょう。人事・育成体系を組み換えて、全員が40歳までに1年以上の出向ができるよう、策を施して欲しいものです。
管理職の候補者層も出向させる
出向に関して、もう一つ、別の観点があります。
出向は、若⼿の育成目的だけではなく、管理職(部⻑クラス等)になる直前の層の、マネジメント訓練・登用⾒極め目的でも活用してはどうでしょうか。と言うのも、マネジメント⼒の観点で「残念な」管理職のもとで、「優秀な」若⼿中堅⾏員が冷遇されたり、活⼒を失い退職を決めてしまったりする話を、いまだに耳にするからです。
私案は、次のようなものです。
- 管理職候補者を、地元の取引先企業などに、1年〜2年、管理職として受け⼊れてもらう
- 銀⾏業務の知識が使えるとは限らず、⾃⾏庫のように上意下達では動かせない、人数も十分ではないなかでマネジメントを経験する
- 一定期間後、受け⼊れ先の社⻑に評価を聞き「良い人を送ってくれた」と言われた人は、⾦融機関に戻って管理職として登用。「いまいち」な評価だった人は、次の機会にむけて再教育をするか、専門職としての道で頑張ってもらう(管理職として不向きなだけで、人として劣るわけではありません)
これからの地域⾦融機関は、過去の知⾒・経験に頼るだけでは難しい運営が求められます。それ故に、管理職のマネジメント⼒も重要度を増すため、出向を活用して同層の人材強化につなげられないでしょうか。
中途採用者3割でプロパー職員も強化
もう一つの「人」(+その集合体としての「組織」)強化のポイントは、中途採用者の活用です。
各⾦融機関ともに、昔に⽐べれば中途採用は増えていますが、特定分野の知⾒補完か、ごく少数の採用に留まります。そのため、少数の中途採用者を、⾃⾏庫の組織⽂化に染めて馴染ませよう、という組織⼒学が強く働きます。基本的な構図は、Vol.35で書いた「社外取締役に、⾃⾏庫の理解を深めてもらう(=異質を同質化する)動きばかりが強い」のと一緒です。
これでは、中途採用者の存在が、プロパー職員の強化にはつながりません。もったいないことです。
『ザ・地銀』では、化粧品・健康食品メーカーのファンケルが、まとまった人数の外部人材を中途採用することで、組織活性化につなげた事例を紹介しました(中途採用者たちを「ピラニア軍団」と呼んでいたそうです)。まとまった人数の中途採用者が社内にいるからこそ、彼ら・彼⼥らを染める対象者として扱うのではなく、学び・気付きをもたらしてくれる存在として⾒ることができたのではと推察します。
中途採用者を、⾃⾏庫の「人」の強化につなげるには「まとまった人数」が必要です。組織の大きさにもよりますが、1割では少ないでしょう。目線は3割です。一つの部署で3割の人が中途採用者となったとき、中途採用者⾃身は心強さを感じ、プロパー職員の刺激や学びは増大して成⻑が加速し、組織は活性化され、景色が変わることでしょう。すぐに3割は無理ですが、時間をかけてでも狙って欲しい水準です。
とにもかくにも組織変⾰は「人」次第です。出向と中途採用者の積極活用で「多く」の「強い人」を生み出し、変⾰を加速化してください。
以上、髙橋昌裕からのYELLでした。